552 / 856
第558話◇
なんだか困ったような顔をしてた玲央は。ふ、と笑い出して。
「とりあえずオレは、終わらせてくる」
と言って、オレをいったん離して、食事に向き直った。
「……ねね、玲央?」
「ん?」
「写真てさ、バンドの皆では撮らないの?」
「活動として、てこと?」
「そぅ、バンドの宣伝とか?」
「撮るよ」
「それは、嫌じゃないの?」
そう聞くと、そうだなあ、と玲央が言って。
「化粧もするし、ちょっと、自分じゃないみたいな感じかな……」
「そうなんだ」
「普通にしてる時に、急にカメラ向けられたり、笑ってとか言われるのが嫌だった感じ」
「なるほど、そうかー」
あ、でもなぁ。高校生の時とか、スマホを学校に持ってきても良くなった頃とかは、皆、写真撮りまくってたような気がするけど……。でもきっと皆で撮ろう、ていうのと、玲央と撮らせてっていうのは、きっと違うんだろうなぁ、と勝手に予想したりする。
「どした?」
「いや……なんか、カッコ良すぎてモテちゃうのも、ほんとに大変だねぇ、と思ってさ」
「――――……何考えてたんだよ?」
苦笑いの玲央がオレを見て、そんな風に聞いてくる。
「うーん、なんか想像してた、写真撮ろうーって皆に言われてる玲央を」
「まあでもオレ、優月と撮る写真は全然嫌じゃないから。撮ろうな」
「うんうん、撮ろうね」
ふふ。嬉しい。
……は。でもな……。
と、少し考えているところで、玲央が笑う。
「今度は何?」
すぐ突っ込まれる。思わず苦笑いが浮かんでしまうけど。
いっつも悟ってくれるのも、嬉しい気もする。
「んー……でも、オレも、玲央が居ないところで写真見て、玲央のこと、見ちゃうかもしれないと思って……ていうか見ちゃうと思うんだけど」
「――――……」
玲央は呆れたようにオレを見て、ぶに、と頬をつまんだ。
「オレが、優月に見られてるのも嫌だっていうと思ってるなら……もうほんとに、アホだけどな」
クスクス笑って、玲央が言う。
「……ない、かな?」
「聞くなよ」
ふ、と玲央が笑う。
そのまま頬から手を離して、ごちそうさま、と言った。
「おいしかった。ありがと」
「うん、良かった。あ、片付けるから、続きしに行っていいよ」
「――――……ん、終わらせてくる。ありがと」
ナデナデされて、うん、と頷くと、玲央が、戻っていった。
「――――……」
撫でられて嬉しいとか。
……オレ撫でられやすい傾向はあって、まあ、玲央じゃなくても、撫でてくる人はたまに居るのだけれど。
……でもやっぱりよく考えれば、ちょっとは、どうして撫でるのかなあって、思う時もあったような。
女の子に、「きゃー、優月くん、かわいー」とか言われて撫でられると。
ええなんで??と思うことはあったし。
女の子に、可愛いって言われるって、だって、基本、絶対女の子の方が可愛いのに。なのに可愛いって言われると、なんかものすごく恥ずかしいし。
とにかく今までわりと撫でられることも多くて。
まあ多いからそんなに気にしないようにしてたというか。
「――――……」
玲央に頭撫でられて、見つめられるのは。
なんかもう素直に、嬉しくて。
……もっと撫でてって思っちゃうんだよね。
……キスも。
触れるのも。
その先も。
全部全部、玲央が初めてで。玲央とするから、好きで。
…………いっこずつ好きなの言ったら、全部してくれる、だって。
さっきの玲央の言葉を思い出すと。
また勝手に、熱くなる。玲央に見られてるわけでもないのに。
オレ、これ、赤くならなくなる日、くるかな……と思う。
ともだちにシェアしよう!