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第559話◇
食器を洗いながら、ふと、こないだ玲央が言ってたことが思い浮かぶ。
「食洗器ほしい?」
そう聞かれた。
食洗器。実家にも無いし、全然ぴんと来なくて、うーん? と言っていたら、考えといて、と言われた。
一人だと食器も少ないし、ごくまれにしか料理しなくて、ほとんど外だったから付けてなかったみたいな話をしてた。
食器が少ないのはそうだろうな、と思うんだけど。ちょっと気になったのは、別のところ。
ほんとに、ほとんど外だったんだなぁ、ごはん……。
……今って、昼は学校だし、夜は出先で食べることも多いけど。ほとんどオレと一緒に食べてくれている気がする。朝は、オレと会うまでは食べてなかったって言ってたから……玲央が良く言うけど、玲央の生活って、本当にオレと会ってから、違うんだろうなあとは、思う。
特定の人とってよりは、色んな人と、だったみたいだし。
――――……少し前まで玲央が一緒にご飯食べてた人達って、玲央が居なくなって、どうしてるんだろ。
全部がそういう関係の人じゃないんだろうけど。
一番仲のいいのはきっと、バンドのメンバー達で、そこの皆とは何回か一緒だからそこは変わらないのかな。
セフレの人たちと一緒だったところに、オレがはまった感じなのかな。
オレは玲央と会う前ってどうしてたんだっけ、と思い出してみると。
朝は家で簡単なもの作って食べてて。
平日のお昼は学校で……夜は、クラスとかゼミとか、友達とか、智也と美咲たちとか……火曜は蒼くんと食べることもあったけど……でもそういうのは毎日じゃなくて、普通に家で作って食べてたっけ。
オレは多分、一人で食べてたところに、玲央が入ってきてくれた感じ、かなぁ。だから、今のところ、誰かと会わなくなったとか、そんなことは特にないような気がする。
そんなことを考えていたら、いろんな人たちと楽しかった玲央が、オレだけになって、いいのかなあ、楽しいのかなあ、と一瞬浮かんでしまったけど。
すぐに、いつも楽しそうに笑ってくれる玲央の顔が浮かんで、それは消えた。
最初の頃、ほんとにオレでいいのかなあ、と思っていた、少しの不安や心配も。
……玲央の笑った顔、浮かべると、すぐ消えていくように、なってきた気がする。
「――――……」
玲央がオレと居て、楽しいって顔で笑ってくれて、触れてきてくれること。
思い出すと、ほんとに幸せで。
洗い終わって、手を拭きながら、食洗器置くならここにおくのかなあという場所を眺める。
どうだろ。要るかなあ……??
いつも、玲央と並んで食器洗うのは楽しいから、それを考えると、全然いらない、とも思うのだけど。
玲央は食器洗うの面倒かな。
……別にオレがやっても全然いいんだけど。
やっぱり話さないと決められないかも。
時計を見ると、二十時を回ったところだった。
シャワー浴びてこようかなあと思いながらも、そのままソファに一度腰かけた。
玲央、どれくらいで終わるんだろう。
もうすぐ、て言ってたけど。
終わったら、曲、聞かせてもらえるのかなあ……。
楽しみ……。
その時ふとさっき考えてたこと、思い出した。
今まで必要無かったから買わなかった食洗器。
それを買おうかなと思うくらい。
これからも一緒にご飯を作って、一緒に食べようって。
そう思ってくれてるってことかなあと思ったら……なんだかすごく嬉しくなってきて。
一人ソファの上で、顔が綻んでしまう。
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