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第561話◇

 ソファに座ってて、と言われて腰掛ける。  なんだかステージに居る玲央の、一人だけの観客になったみたいな気分で、ちょっと緊張。だって、本当に、特等席って感じがする。  玲央が聴かせてくれたのは、二曲。  一曲目はギターで弾いてくれた。アップテンポで、聴いてるだけで楽しくなるみたいな曲。どんな歌詞が付くんだろうって、楽しみでしょうがない。  一曲目が終わるとギターを置いて、ピアノの鍵盤の蓋を開きながら、「過去最短でできた」なんて笑って。  それから弾いてくれたのは、一曲目とは全然違う、なんだか、すごく静かで優しい、曲。  玲央がピアノ弾いてる姿って……綺麗。  カッコいいんだけど……なんだろう。  素敵すぎて。尊いものを、見ている気分になってくる。  何だろう。  曲を弾いてもらって泣くとか……なんか一人で浸りすぎてるみたいで、すごく恥ずかしいし、そんなので泣いたら嫌かなと思うから、ずっと我慢してるんだけど。  ……曲が優しすぎて、心に響きすぎて。  気を緩めたら、一気に涙が溢れそうになってる。  どうしよう。なんか。ヤバい。  ……困ったな。  その内、我慢しきれない内に、曲が終わってしまって。  玲央が静かにオレを振り返った。 「どっちが好き?」  玲央が、ん?と微笑みながら、オレにそう聞いてくる。 「……うん」  どっちも好き。  ――――……しいて言うなら二曲目が、優しすぎて、胸が痛い。  と言いたいのだけれど……。    オレはソファから立ち上がると、ピアノの椅子に腰かけている玲央の所に歩み寄って、そのまま、ぎゅ、と抱き付いた。 「優月?」 「……うん」 「……どした?」  背中に玲央の手が、触れる。 「……すごく、良かった」  そう言うと、玲央がクスっと笑う。 「……泣いてる??」 「――――……泣いてない……」  そう言うんだけど――――……玲央は、ふ、と笑って、オレを離させて、顔を見上げてくる。 「泣くほどよかった?」  もうバレてるから隠し続ける気もなくなる。 「……ん。良かった」 「んー、どこらへんが?」 「一曲目は……明るくてすごく楽しい曲。盛り上がると思う。二曲目は、優しくて……んーと……キラキラしてた」 「キラキラ?」 「うん。……聴いた人は、幸せに、なると思う。どっちも、すごく、好き」  そう言うと、玲央はオレを見て、それからとても嬉しそうに微笑んだ。 「……優月が気に入ったならよかった」  肩に触れた手に、引き寄せられる。  ちゅ、とキスされる。 「……どっちも、大好きだよ」  そう言うとなんだかますます泣きたくなる。  瞳がウルウルしてると思う。視界が滲むから。   すると。 「――――……優月、おいで」  そう言って、クスクス笑いながら、玲央はオレを抱き締めた。  すっぽり腕に収まると――――……すこし、落ち着く。 「可愛いなー……ほんと」  笑み交じりの声が、頭の上で聞こえる。    毎日毎日、可愛いって言ってくれて。  好きって、言ってくれて。抱き締めてくれて。  こんなに素敵な曲、一番に聞かせてくれて。 「……ありがと、玲央」  言うと、何が?と笑われる。 「全部。曲も。……全部」  そう言うと、玲央はオレをじっと見つめて、ふ、と微笑む。 「二曲目は――――……」 「ん?」 「優月のこと思いながら作ったら、ほんと最速だった。良い曲だろ?」  ふ、と自信ありげに笑う玲央に。 「――――……」  なんかもう、我慢できそうだったのに、急に、涙が零れ落ちた。 「うわ」  玲央がすごくびっくりした顔でオレを見て、頬に触れてくる。 「また泣く……」  クスクス笑いながら、玲央は、いつもするみたいにその手で涙を拭ってくれる。 「……ほんとよく、泣くな……」  言うけど、笑いを含んだその声は優しくて。  ほんとオレ、玲央といると、よく泣いてて、ほんとに、これはどうなんだろ、と思うのだけれど。  ……ごめんねとか、言わなくてもいいかなって。  よしよし撫でてくれる玲央に、そんな風に思って。    またまた大好きが積み重なっていく気分、だった。

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