555 / 856
第561話◇
ソファに座ってて、と言われて腰掛ける。
なんだかステージに居る玲央の、一人だけの観客になったみたいな気分で、ちょっと緊張。だって、本当に、特等席って感じがする。
玲央が聴かせてくれたのは、二曲。
一曲目はギターで弾いてくれた。アップテンポで、聴いてるだけで楽しくなるみたいな曲。どんな歌詞が付くんだろうって、楽しみでしょうがない。
一曲目が終わるとギターを置いて、ピアノの鍵盤の蓋を開きながら、「過去最短でできた」なんて笑って。
それから弾いてくれたのは、一曲目とは全然違う、なんだか、すごく静かで優しい、曲。
玲央がピアノ弾いてる姿って……綺麗。
カッコいいんだけど……なんだろう。
素敵すぎて。尊いものを、見ている気分になってくる。
何だろう。
曲を弾いてもらって泣くとか……なんか一人で浸りすぎてるみたいで、すごく恥ずかしいし、そんなので泣いたら嫌かなと思うから、ずっと我慢してるんだけど。
……曲が優しすぎて、心に響きすぎて。
気を緩めたら、一気に涙が溢れそうになってる。
どうしよう。なんか。ヤバい。
……困ったな。
その内、我慢しきれない内に、曲が終わってしまって。
玲央が静かにオレを振り返った。
「どっちが好き?」
玲央が、ん?と微笑みながら、オレにそう聞いてくる。
「……うん」
どっちも好き。
――――……しいて言うなら二曲目が、優しすぎて、胸が痛い。
と言いたいのだけれど……。
オレはソファから立ち上がると、ピアノの椅子に腰かけている玲央の所に歩み寄って、そのまま、ぎゅ、と抱き付いた。
「優月?」
「……うん」
「……どした?」
背中に玲央の手が、触れる。
「……すごく、良かった」
そう言うと、玲央がクスっと笑う。
「……泣いてる??」
「――――……泣いてない……」
そう言うんだけど――――……玲央は、ふ、と笑って、オレを離させて、顔を見上げてくる。
「泣くほどよかった?」
もうバレてるから隠し続ける気もなくなる。
「……ん。良かった」
「んー、どこらへんが?」
「一曲目は……明るくてすごく楽しい曲。盛り上がると思う。二曲目は、優しくて……んーと……キラキラしてた」
「キラキラ?」
「うん。……聴いた人は、幸せに、なると思う。どっちも、すごく、好き」
そう言うと、玲央はオレを見て、それからとても嬉しそうに微笑んだ。
「……優月が気に入ったならよかった」
肩に触れた手に、引き寄せられる。
ちゅ、とキスされる。
「……どっちも、大好きだよ」
そう言うとなんだかますます泣きたくなる。
瞳がウルウルしてると思う。視界が滲むから。
すると。
「――――……優月、おいで」
そう言って、クスクス笑いながら、玲央はオレを抱き締めた。
すっぽり腕に収まると――――……すこし、落ち着く。
「可愛いなー……ほんと」
笑み交じりの声が、頭の上で聞こえる。
毎日毎日、可愛いって言ってくれて。
好きって、言ってくれて。抱き締めてくれて。
こんなに素敵な曲、一番に聞かせてくれて。
「……ありがと、玲央」
言うと、何が?と笑われる。
「全部。曲も。……全部」
そう言うと、玲央はオレをじっと見つめて、ふ、と微笑む。
「二曲目は――――……」
「ん?」
「優月のこと思いながら作ったら、ほんと最速だった。良い曲だろ?」
ふ、と自信ありげに笑う玲央に。
「――――……」
なんかもう、我慢できそうだったのに、急に、涙が零れ落ちた。
「うわ」
玲央がすごくびっくりした顔でオレを見て、頬に触れてくる。
「また泣く……」
クスクス笑いながら、玲央は、いつもするみたいにその手で涙を拭ってくれる。
「……ほんとよく、泣くな……」
言うけど、笑いを含んだその声は優しくて。
ほんとオレ、玲央といると、よく泣いてて、ほんとに、これはどうなんだろ、と思うのだけれど。
……ごめんねとか、言わなくてもいいかなって。
よしよし撫でてくれる玲央に、そんな風に思って。
またまた大好きが積み重なっていく気分、だった。
ともだちにシェアしよう!