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第563話◇

  「――――……」  玲央が部屋を出て行って、少し経ったのだけれど、オレはまだピアノのところで、ぼー、としながら、音を響かせていた。  連弾が終わった後、抱き締められて、しばらくはそのままくっついてたのだけれど。シャワー浴びてくるから待ってて、と玲央が言って、軽く頬にキスして離れていった。  玲央って。  ――――……あんな風に、ピアノ、弾く人なんだ。  学園祭のイケメンナンバーワンになってた時とか、出会った時の印象からしたら、なんだか全然違う。  派手で目立つ人。色んな人の真ん中で、騒いで、楽しそうで。  ……今も別に、見た目が変わってる訳じゃないけど。  ……優しいのはもう知ってたんだけど。   ――――……玲央のピアノ。……良かったなあ。  さっき。  玲央と演奏したのも。  ……気持ちよかった。  ふ、と気持ちが和らぐ。  連弾、いっぱい弾いたことあるけど。  ……本当に、今までで一番、気持ちよかった。  さっき弾いた曲のメロディーを、ゆっくりと弾いてみる。  一人で弾いても、もちろんちゃんと曲なんだけど。玲央と一緒に弾いた重なった音たちが綺麗すぎたから、どうしても、物足りなく感じる。  玲央と、弾く呼吸が合うっていうのが。  すごく嬉しい気がする。  波長というか……無理に合わせることのできない、元の部分ていうか。そういうのが合ってる気がするのって、なんだかとってもとっても、嬉しい。  ……玲央といると、それだけで楽しいからなあ……。  ――――……なんか、引き寄せられてしまうみたいに、好きになったっけ。  玲央が弾いてくれた方は、メロディを弾く時もあるけど、大体は音を重ねる方だから、一人で弾くにはちょっと難しい。右手だけで練習してみる。  オレのと上手に合わせてくれたのは、玲央がうまいから。  ……曲作ったりでピアノ弾いてるから、上手なままなのかな。  久しぶりに弾くピアノの音に、なんだか気持ちよくて、覚えている曲を続けて弾いていると、不意に、玲央が隣に立った。 「あ。玲央。おかえり」 「ただいま」 「気づかなかった」  ピアノを弾くのを止めて、玲央を見上げると。  肩に、玲央の手が乗って、ぽんぽん、と叩かれた。 「最後まで弾いて?」  そう言って、玲央が離れて、ソファに腰かけた。  ん、と頷いて、続きを弾き始める。  ピアノって、弾いてると、無心になれる。  絵を描いてる時もそうだけど。  そういうのが、オレは好きみたい。  ピアノも絵ももちろん誰かが教えてくれて、見てもらったり、誰かと一緒にしてきたし。表に向けて弾いたり描いたりもするんだけど――――……でも一番大事なところは、一人ですることが多くて。自分の中と向き合うみたいな感じ。  そんなのが好きで、ずっと出来たらいいなあなんて、思って。   これに関しては、一人で無心、が好きだったんだけど。  ――――……玲央を描いたり、玲央と弾いたり。  なんかこの二日間。玲央に絡んでそれらをするのが楽しすぎて。  玲央がすんなりとオレの世界に入ってきて、自然と居てくれるのが。  というか、玲央だけじゃなくて、自分以外の誰かが。  オレのこの大事な部分に居ることを、こんなに好きだと思う日がくるなんて、思いもしなかった。

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