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第564話◇
曲を弾き終えて、振り返る。
まっすぐ玲央を見つめると、玲央がにっこり笑った。
「優月の音は、優月だなって感じがする」
「……」
「――――……素直。聞き心地いいよな」
優しい口調で言う玲央に、なんだか、我慢できなくなって。
オレは立ち上がって、玲央に近付いた。
「優月?」
近くに立ったオレを見上げて、優しい声で、名を呼んでくれる。
……なんかオレ。
…………この人が、本当に好き、だなぁ……。
ソファに座ったままの玲央に、そー、と顔を近づけて。
唇に、キス、した。
「――――……」
――――……ん??
……あれ。オレからするの、初めてじゃない……よね??
初めてだっけ? 玲央に言われてしたことはあるけど……。
あんまり自分からしたことはないかもだけど……。
とにかくなんだか、玲央がびっくりした顔をしてオレを見てて。
――――……なんだかとっても恥ずかしくなって、少し離れようとした瞬間。
腕を掴まれて、引き寄せられて、そのまま後頭部を押さえられて、キスされる。オレがした、触れるだけのキスとは全然違う、舌が触れてきて、ぞく、と背筋が震えてしまうような、キス。
気づいた時には、ソファに腰かけてた玲央の上にオレが乗っかって座ってる、みたいな感じの体勢になっていて。
「……っん……」
呼吸が、ままならなくなって。
――――……声が、息とともに、漏れる。
「……玲、央……」
長いキスが解かれて、でも触れてしまいそうな位近くで、オレを見つめると。
「――――……やらしい、顔してる」
「……え」
「かわい」
くす、と笑う、玲央。
後頭部を押さえていた手を、耳から首筋を通って、それから頬に触れる。そんな軽い接触にも、なんだか、ぞくっとして肩をすくめたら。
「……今どんな気分?」
下から、玲央が、熱っぽい瞳で見上げてくる。
「――――……どんな、て……」
「オレと、何、したい?」
頬に触れたまま、親指で、唇をなぞる。
胸が――――……痛い位に、ドキドキ、する。
「……オレ……」
「うん」
「――――……玲央と……シたい……」
「――――……」
そのまままっすぐ言ったら、玲央は、少し、黙ってしまった。
「……そのまんま、直球、だな」
クスクス笑い出して、玲央がオレを下から見つめる。
少し下から、見上げられる感じ。
玲央をちょっとだけ見下ろして。
上向いてる玲央の前髪が少しだけ左右に散って、おでこが可愛いな、とか。
そんなことにすら、なんだか胸が、ときめく。
「まず、何がしたい?」
「――――……キス……したい」
もう、触れそうな位、近かったけれど。
そう言ったら、優しく唇が、触れてくれる。
けど、触れるだけのキスだけ。
「キスして……あとは?」
そう聞かれるけど。
「――――……もっとちゃんと、したい」
なんか――――……顔から火が出そうって、こういうことだろうって思う位、顔が熱いけど。
なんだかすごくすごく、玲央と、したくて。
「――――……」
玲央の首にきゅ、と抱きついて。
自分から、唇を近づけて、重ねた。
舌を触れさせるの、いつもしてるけど、自分からするのがこんなに緊張するんだと思い知る。
でも、なんだか、ほんとに、どうしても、触れたくて。
玲央の口に、舌を入れて――――……玲央の舌に、触れてみる。
「――――……」
ちゅ、と音が出ると。
――――……うわわ。恥ずかし……。我に返って思わず引こうとしたら。
「……続けて?」
玲央が笑みを含んだ声で言いながら、オレの項を押さえる。
「――――……っ……」
したいんだけど。
自分からするのは、めちゃくちゃ恥ずかしいってことに。
今更、改めて、気づいた。
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