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第574話◇
【side*玲央】
とにかく、めちゃくちゃ、優月が可愛いなと思った週末だった。
作曲もしていたけれど、買い物したり公園に散歩に行ったり、最後は優月の実家に行ったり。
そっくりという訳ではないけれど、素直な感じがとても優月に似ている可愛い双子と、しっかりしてるけど優しい感じの優月の母親にも会って。なんとなく、優月があんな感じなのも納得。
結局全部優月と食事をとっていたし、いつもみたいに閉じこもりの缶詰というわけではなかったけれど、結果として二曲はできた訳だし、うまくいったんだと思う。
いつもはわりと根を詰めてストレスのたまる作業なイメージがあるのに、なんだか、ものすごく穏やかに終えたような気がする。
……まあ、全部、優月のおかげな気がするけど。
最近朝はいつもそうであるように、優月と一緒に学校に来て、部室。
ドアを開けると、今日は先に来ていた勇紀が振り返った。
「あ、玲央、おっはよ。今日も早いね」
「ああ……つか、お前、ほんと朝から元気だよな」
「今日は特にね。曲できたとか言うから、楽しみで」
楽しそうにオレを見て笑う勇紀の目の前にカバンを置いた。
朝起きた所で、三人に曲ができたと連絡したら、いつ聞けると聞かれたから、朝部室で時間つぶす、とだけ返しておいたのだけれど。
「甲斐と颯也も来るってさ」
「ん。そか」
返事をしながら、録音してきたメモリーカードを取り出す。
「早いじゃん。二日で二曲?」
「まだ歌詞はつけてないけどな」
CDラジカセを棚から机に運んでコンセントを差し込んで、メモリーカードを挿入。
「それでも早いでしょ。玲央って曲作りは結構時間かかるのに」
「だな……」
苦笑いで頷いたところに、颯也と甲斐も入ってきた。
「はよ」
「おーす。玲央、なに、二曲できたって、すごいじゃん」
言いながら、カバンを置いて、二人が椅子に腰かける。
「あ、そっか。優月がひたすら世話してくれた? 食事とか、飲み物とかさ。せっせと用意してそう」
笑いながら言う勇紀のセリフに、ふ、と笑んでしまう。
せっせと世話。……確かにその言葉、すごく当てはまる気がして。
「あ、笑ってるし。絶対そうなんだろ。なんか想像するだけで、可愛いなあ、優月」
「……お前、優月のこと、ほんと好きだよな……」
最後まで聞いてすぐ、勇紀を軽く睨むと。勇紀は、ははっと苦笑い。
「そういう意味じゃないからね。でも、優月、可愛いよな??」
勇紀が颯也と甲斐に救いを求めると。
「この流れで可愛いを求められると頷けないけどな……」
クスクス笑いながら颯也が言うと、「まあ、せっせと世話してそうではあるな」と甲斐が笑う。
「んで、それをひたすら可愛いと思ってンのは、玲央だろ?」
甲斐に視線を向けられて、まあそうだけどと思っていると、勇紀がため息。
「つーかさあ、玲央よりずっと前から、オレの方が優月と最初に仲良かったんだからさぁ。後から入ってきて、ぶつぶつ言わないでほしいっつーか」
「――――……」
そんな言葉に無言で顔を見ると、勇紀はまた苦笑い。
「もーだからー、そういう意味じゃないって。でも、会った時からほんと気に入ってんの。オレは。……泣かせないでほしいと思うしさ」
「――――……」
泣かせないでほしい、か。
……なんか。蒼さんにも言われたし。……オレが優月を泣かせると、皆、なんとなく思うのか。と、少し考える。
「――――……思うんだけど」
言って、そこで少し止まると、皆、オレを見て次の言葉を待っている。
「……優月はオレが泣かせても、多分大丈夫」
「「「……どーいう意味?」」」
見事に声がそろって、皆で顔を見合わせて笑ってしまうが。
「優月は気持ちが強いから。――――……泣いても、大丈夫な気がする。……泣かすつもりはねーけどな」
なんか、いつもフワフワ笑ってる、優月を思い浮かべると。
「……でも、オレよりずっと、まっすぐ強いと思う」
思わず、微笑んでしまう。
――――……そういうフワフワしてるけど、強いとこも、好きかも。
それはこいつらに言ったらうるさそうだから言わないが。
オレの言葉に、皆も特に反論はないらしく、クスクス笑い出す。
「確かに優月は色々強いかも……」
「それ位じゃないと、玲央なんか無理だよなー?」
「言えてる」
勇紀と甲斐と颯也がそれぞれ言って、笑ってる。
「――――……音、かけるぞ?」
そう言ってリモコンを持つと、皆、頷いて口を閉じる。
再生ボタンを押して、オレも椅子に腰かけた。
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