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第575話◇
音が鳴り始めてすぐ、テーブルに肘をついて、顎を乗せる。
そのまま目を閉じて、音を確認。
ここ少し直すかな、とたまに思いながら。
二曲続けてかかるので、両方聞き終えてから、顔を上げた。
少し無言の後。
「――――……すげえいい。な?」
皆が笑顔で。
勇紀が先にそう言って、颯也と甲斐を見つめると、二人も頷く。
「曲って……精神状態、出るよな」
「マジでそう思う」
颯也の言葉に甲斐が頷いて、ちらっとオレを見てくる。
「特に二曲目。……なんか玲央が作るにしては珍しい」
颯也が言いながら、笑う。
二曲目は、優月を思って作った曲の方。
「こんな感じの涼しい音で、切ないのかと思いきや、幸せな感覚の曲とか――――……な?」
そう言って、甲斐と勇紀に視線を投げる。
「曲聞くと、玲央が変わってンの分かる」
面白そうに笑う甲斐と。
「玲央って、優月に会ってまだ間もないのにな? これからの曲、すげー楽しみかも」
勇紀も。楽しそうに笑う。
……自分でも分かっていたけれど。
――――……今まで作ってきた音とは、かなり、違う。
少し曲調を変えたとか、そんなんじゃない。別人が作ってるみたいな曲だよなと、思ってはいた。
「……優月には、キラキラしてるって言われた。……聴いた人は幸せになると思うって」
そう言ったら、三人は、ふ、と笑う。
――――……珍しく、何も突っ込みが入ってこない。
「……まあ、これ。優月を見てたら浮かんだっつーか。過去最速だった」
そう言った瞬間。
今度は可笑しそうに笑って、「つか、ノロケか」と勇紀が速攻で突っ込んでくる。
「もうじゃあそっちは、玲央が歌詞も考えろよ。下手な歌詞つけたら怒られそう」
「だな。もう一曲はどーする? 誰か考える? 玲央考える?」
甲斐と勇紀の言葉に、少し考えてから。
「もう一曲は任せる。曲はこの二曲でいいのか? 誰か他に候補の曲作んねえの?」
そう言うと、苦笑いの颯也が、オレを斜めに見やって、ヒラヒラ手を振った。
「今の幸せオーラ全開のお前の曲に勝てる気しないから、パスー」
「オレも」
「パス」
颯也に続いて、勇紀と甲斐も言う。
「玲央、曲のデータ、スマホに送って。歌詞早い奴がつけるっつーことにしよ」
甲斐の言葉に、家帰ったら送る、と伝える。
「とりあえずもう何回か、流そうよ」
勇紀に頷いて、もう一度流し始める。
ここが好きだとか、こうしたら~?とか、好きなこと言ってるのを聞きながら、一限を過ごした。
部室を出る時、ふと甲斐が振り返ってオレを見た。
「あ、そだ、玲央、あの部屋貸して」
「OK――――……って、あ、悪い。鍵持ってない。しばらく使ってないから置いてきた」
甲斐にマンションの鍵を貸そうと動いた瞬間、置いてきたことに気づいて、そう言った。すると。
「鍵持ってないなんて、初めてだよね!」
甲斐よりも早く、勇紀がかなり暑苦しい感じで乗り出してくる。
「つか、もう、ほんとにあっちを使う気ないんだね」
ニヤニヤされて、めちゃくちゃじーっと見つめられる。
「――――……つか、使う訳ねーだろ。優月とあっちに行く意味はねえし」
「……ふふふーん、そっかー」
気持ち悪いほどご機嫌に、勇紀が笑ってる。
「まあ別行くから全然いいけど」
「あそこすげー景色良いもんね。綺麗だし」
甲斐と勇紀が言うのを聞きながら、「今度持ってきとく」と言うと、ぷ、と甲斐が笑った。
「ほんと、玲央――――……」
そう言ったきり、次の言葉を出さずに、クックッと笑ってる。
「お前感じ悪りーな、せめて全部言ってから、笑えよ」
そう言うと、甲斐は口元を軽く押さえながら。
「なんか何て言ったらいいか分かんねえんだよな……」
「じゃあ言うな笑うな」
そう言って、部室のドアを閉めて、歩き出すと。
後ろから歩き出す皆が、分かる分かる、とか言い合っている。
ふー、とため息。
――――……でも。
曲が一発オーケーだったのは、なんか良い気分。
しかも。優月のこと思いながら書いた曲。
良いって言われたって、優月に言おう。
きっと、嬉しそうに笑うだろうなと、思うと。顔が綻ぶ。
「また笑ってるしー! もー玲央、キモイーどうなんだよ、それー! どうせ優月のこととか考えるんだろうけどー!」
――――……騒がれても、無視できる位には、機嫌がイイ。
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