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第580話◇

 ジャガイモの皮をむきながら、なんとなく隣に居る玲央のことを考える。  玲央は優しい。カッコいい。スマート。  指が綺麗。筋肉が綺麗。作り物かなって思う時もある位。  男の人で、すごくすごくカッコいい人なんだけど、時々ものすごく、色っぽい。髪を掻き上げる仕草とか。オレを斜めに見つめる視線とか。  ドキッとするほど、色っぽくて、ほんと、不思議。  ……オレ、思えば、今まで女の子を色っぽいなーとか思ったことないんだけど。それを何で男の人の玲央に感じるのか、自分でも不思議……。  ……でも、玲央を見てると、たまに、すごく色っぽいって勝手に感じて。  ドキドキが止まらなくなってしまう。 「優月、何個ジャガイモむくの?」 「ん?」 「そんなにあの生地に乗る?」  クスクス笑って、玲央が言う。  あれれ。いつの間にか、四個もむいてた。 「むきすぎちゃったかも……」  そう言って玲央を見上げると、何とも言えない顔でオレを見て。  それから、可笑しくてたまんないって顔で笑う。 「明日の朝用に、ポテトサラダでも作る? 茹でようか?」  そう言ってくれたので、うん、と頷く。  鍋に水を用意してくれながら、玲央が笑う。 「何か考えてたか?」 「――――……いや……うん。あの……」 「ん?」 「……玲央は、カッコよくて……たまにすごく色っぽいなあって思って……」 「――――……ふうん?」  ちら、と見つめられて、また笑われる。 「そういえば今までね、あんまり人を色っぽいなあなんて思った事なかったのに、どうして玲央はって、思ってたんだけど……」  そう言うと、玲央は、生地にオリーブオイルを塗りながら、クスクス笑う。 「――――……まあ、オレ、昔からよく言われるかも」 「え。色っぽいって?」    それは。歴代の彼女さんとか、セフレの皆さんとか……?  そうだよね、そういうことしてる時の玲央って、ほんとに……。  と思いながら、ちょっとそれを言われるシチュエーションを考えていたら。  玲央がオレを覗き込んだ。 「違うよ、優月」 「……??」 「エロいことしてる時の話じゃなくて」 「――――……」 「ステージ上とかのこと。よく言われてたってことな。ファンからも言われてた、色っぽいって」 「――――……あ、そういう……」  確かに、ステージも、なんか、すごく色気がありました……。  そっちかー。なんか良かった。  あんまりそういう意味で玲央が色っぽいこと、知ってる人がいっぱい居るのは……仕方ないんだと思いながらも、ちょっとだけ切ないもんね。 「優月」 「?」  玲央を見上げると。  ちゅ、とまたキスされる。 「……ごめんな」 「――――……」 「……会う前のことは無理だけど……」 「っ大丈夫!」  最後まで聞かず、玲央を見つめて、オレはそう言った。 「本当に、大丈夫だよ、玲央」 「――――……」 「ごめんね、玲央の色っぽい顔知ってる人が……とか思ったら、ちらっと考えちゃったけど……謝ってほしいわけじゃないから……謝んないで?」 「――――……」  玲央は、ふ、と笑ってオレを見つめる。 「オレと会う前のことは、別にオレには関係ないって本当に思ってるんだけど」 「……ん」 「でも、なんだろ。ちょっとは……独占欲的なのがあるのかなあ……??」 「――――……」 「……そういうの、オレにも少しはあるのかもって、最近たまに思うかも……」 「初めて?」 「ん?」 「そういう独占欲っぽいの」 「……うん。今まであんまり思ったことないかも。でも、ほんとに、我慢してるとかじゃないからね?」  ふ、と笑って、玲央は、オレの頬にキスをする。 「それも分かってる」 「――――……うん」  ふふ、と笑って、見つめあうと。  なんかすごく、玲央のこと、好きだなあと、思いつつ。  「オレは人生で色っぽいなんて言われたことないけど」  あはは、と笑いながら、オレがそう言うと。  ん? と玲央がオレを見て。  なんだかすごく、何か言いたげ……?  不思議な感じの玲央をオレは見上げる。

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