579 / 856
第580話◇
ジャガイモの皮をむきながら、なんとなく隣に居る玲央のことを考える。
玲央は優しい。カッコいい。スマート。
指が綺麗。筋肉が綺麗。作り物かなって思う時もある位。
男の人で、すごくすごくカッコいい人なんだけど、時々ものすごく、色っぽい。髪を掻き上げる仕草とか。オレを斜めに見つめる視線とか。
ドキッとするほど、色っぽくて、ほんと、不思議。
……オレ、思えば、今まで女の子を色っぽいなーとか思ったことないんだけど。それを何で男の人の玲央に感じるのか、自分でも不思議……。
……でも、玲央を見てると、たまに、すごく色っぽいって勝手に感じて。
ドキドキが止まらなくなってしまう。
「優月、何個ジャガイモむくの?」
「ん?」
「そんなにあの生地に乗る?」
クスクス笑って、玲央が言う。
あれれ。いつの間にか、四個もむいてた。
「むきすぎちゃったかも……」
そう言って玲央を見上げると、何とも言えない顔でオレを見て。
それから、可笑しくてたまんないって顔で笑う。
「明日の朝用に、ポテトサラダでも作る? 茹でようか?」
そう言ってくれたので、うん、と頷く。
鍋に水を用意してくれながら、玲央が笑う。
「何か考えてたか?」
「――――……いや……うん。あの……」
「ん?」
「……玲央は、カッコよくて……たまにすごく色っぽいなあって思って……」
「――――……ふうん?」
ちら、と見つめられて、また笑われる。
「そういえば今までね、あんまり人を色っぽいなあなんて思った事なかったのに、どうして玲央はって、思ってたんだけど……」
そう言うと、玲央は、生地にオリーブオイルを塗りながら、クスクス笑う。
「――――……まあ、オレ、昔からよく言われるかも」
「え。色っぽいって?」
それは。歴代の彼女さんとか、セフレの皆さんとか……?
そうだよね、そういうことしてる時の玲央って、ほんとに……。
と思いながら、ちょっとそれを言われるシチュエーションを考えていたら。
玲央がオレを覗き込んだ。
「違うよ、優月」
「……??」
「エロいことしてる時の話じゃなくて」
「――――……」
「ステージ上とかのこと。よく言われてたってことな。ファンからも言われてた、色っぽいって」
「――――……あ、そういう……」
確かに、ステージも、なんか、すごく色気がありました……。
そっちかー。なんか良かった。
あんまりそういう意味で玲央が色っぽいこと、知ってる人がいっぱい居るのは……仕方ないんだと思いながらも、ちょっとだけ切ないもんね。
「優月」
「?」
玲央を見上げると。
ちゅ、とまたキスされる。
「……ごめんな」
「――――……」
「……会う前のことは無理だけど……」
「っ大丈夫!」
最後まで聞かず、玲央を見つめて、オレはそう言った。
「本当に、大丈夫だよ、玲央」
「――――……」
「ごめんね、玲央の色っぽい顔知ってる人が……とか思ったら、ちらっと考えちゃったけど……謝ってほしいわけじゃないから……謝んないで?」
「――――……」
玲央は、ふ、と笑ってオレを見つめる。
「オレと会う前のことは、別にオレには関係ないって本当に思ってるんだけど」
「……ん」
「でも、なんだろ。ちょっとは……独占欲的なのがあるのかなあ……??」
「――――……」
「……そういうの、オレにも少しはあるのかもって、最近たまに思うかも……」
「初めて?」
「ん?」
「そういう独占欲っぽいの」
「……うん。今まであんまり思ったことないかも。でも、ほんとに、我慢してるとかじゃないからね?」
ふ、と笑って、玲央は、オレの頬にキスをする。
「それも分かってる」
「――――……うん」
ふふ、と笑って、見つめあうと。
なんかすごく、玲央のこと、好きだなあと、思いつつ。
「オレは人生で色っぽいなんて言われたことないけど」
あはは、と笑いながら、オレがそう言うと。
ん? と玲央がオレを見て。
なんだかすごく、何か言いたげ……?
不思議な感じの玲央をオレは見上げる。
ともだちにシェアしよう!