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第581話◇

「オレ、優月に色っぽいって言ったこと、ないっけ?」 「……? ない……かな? ていうか、色っぽく無いから言わないでしょ?」  何を言ってるんだろ、玲央。 「……普段は無いけど。つか、普段は可愛いけど」 「――――……」  そ、と頬に触れられる。 「……抱いてる時は、いつも思ってるよ」 「――――……っ?」  いやいや。ていうか、いつも思ってるの、オレだよ。  ……ていうか、オレのこと色っぽいとか思ってるの??   そんなわけないよね……??  全力で頭の中で否定しながらも、またまた顔が熱くなる。 「……色っぽいって思うからシてるんだし」  玲央がふ、と笑って、そう囁く。 「…………っっっ」  ……そんな風に言ってる玲央が、やっぱり、色っぽすぎるんだよう……!  うー---。 「……っあの……」 「ん?」 「ピザ……作れなくなるから」 「……あ、そう?」  玲央が可笑しそうに、オレを見下ろす。 「先、作ろう……?」 「――――……いいよ」  ぷぷ、と笑いながら、玲央がオレを見つめるけど。  オレは見つめ返さず、玲央が水を入れてくれた入れ物に、ジャガイモをぽいぽいと入れていく。それを見ていた玲央が、笑いながら。 「……優月がこういう話で赤くなるのが可愛くてさ」 「――――……?」 「こういう言い方でわざと言っちゃってるかも」  そんな風に言ってる玲央に。  ……ちょっと意地悪、とも一瞬かすめるんだけど。…………だめだ。  優しい言い方でこんなこと言われても。全然、許せてしまう……。 「……オレのこと、色っぽいとか言ったら、きっと皆笑うんじゃないかな?」  ふとそう思って、ちょっと笑ってしまいながら玲央に言う。  水にさらしたジャガイモの水を捨ててレンジに入れてから、玲央はオレに視線を向けた。 「そうかな? ――――……勇紀なんかは、怒ると思うぞ」 「怒るってどうして?」 「優月を色っぽくとか言うな、汚さないで! みたいな感じなんだよな……」 「――――……」  んん? ……よく分かんないけど。 「勇紀にとって、優月は超可愛い相手みたいだけど?」 「……あー……勇紀は、たまに可愛いって、言ってたかも。冗談でだけど」 「それがなんか冗談じゃなさそうだけど」 「……冗談だよ」 「あいつ本気で言ってるぞ、汚すなって」 「んー? 冗談だと思うけどなぁ……?」  二人でずっと平行線。  クスクス笑いながら。玲央が、ま、いっか、と笑う。 「ていうかオレ、別に汚されてなんかないよね?」 「――――……それ、言った」 「あ、言ったの?」  そっか、と笑い返すと。 「汚してんじゃなくて、可愛がってるだけって言っといた」  はは、と笑いながら、玲央がそんなことを言うけれど。 「――――……」  それを勇紀にいえちゃう玲央がすごいのだけど。  ……すごくないのかな? 普通なのかな?   と思いながら、なんか恥ずかしい。  別にレンジを見守らなくてもいいのだけど、ずっとその前で固まっていると、玲央がふとこっちを見て笑う。 「なんでずっと見てんだ?」 「……考えてたの」 「何を?」 「勇紀にそれ言うのって、恥ずかしくなかったのかなあって」 「何で?」 「だって……」  可愛がってんだよ、とか。  ……だって、汚すとかってそういう意味でしょ? 汚してんじゃなくて、可愛がってるって、そういう意味のこと、だよね??  うぅ。恥ずい……。  いやでも、玲央は恥ずかしくなさそうだけど……。 「それ言った時って、勇紀は何て??」  そう聞くと、玲央は、ん? と眉を寄せてる。  どうだったかなあと言いながら、玲央はピザ生地の上に、シラスとチーズをばらまいた。 「……ああ、なんか、ぽけっとした顔してるから、置いてったような気がするな。ちゃんとは何も言ってなかったな」 「――――……なるほど」  ああ、なんか、その光景が、目に浮かぶよな気がする。  口元に手をあてて、オレは苦笑い。 「なるほどって……納得したのか?」 「んー……何か、その時の勇紀の顔が見えるみたいな気が……」 「そう?」 「うん」  まあいつも通りだけどな、と玲央が笑う。 「なあ、優月、小葱はどれくらいがいい? もっと入れるか?」 「ん。……それくらいでいい。美味しそう」  ちょうどレンジの温めも終わって、そのまま、オーブンの予熱を開始。  マヨネーズを塗った生地にじゃがいもと玉ねぎと、切ったウインナーを並べて、チーズをのせる。 「今度時間がある時は、生地から作ろうな?」 「うん、そうだね。いっぱい作ってさ、それで」 「誰か呼ぶ?」  玲央に続きの言葉を付け足されて、うんうん、頷く。 「あ。でも、ここに人、呼んでいいの?」 「別に、向こうで用足りてたから呼ばなかっただけで……料理するなら、こっちだな」 「じゃあ、今度皆で、ピザパーティしようね」  楽しそうだなあ。 「具材、おいしそうなの見つけとこうね」  そう言うと、玲央が、ん、と頷いた。

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