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第586話◇

 夕飯を片付け終えて、玲央の言うクローゼットの奥を見に行くと、何冊かのアルバムが出てきた。 「結構、数、あったな」 「一回も見てないの?」 「見てない」  苦笑いの玲央に、なんか玲央っぽいなと笑ってしまう。 「なんかドキドキする。早く見よ、玲央」  手分けして、ソファまで運んで、並んで座った。 「これが最初みたいだな」  一冊のアルバムを手渡される。   「開いちゃうよー?」 「いいよ」  なんだか本当にドキドキしながら言うと、玲央は可笑しそうに笑いながら、頷いた。  一ページ目を開くと。  そこには赤ちゃんの寝顔。 「わぁ……可愛いー!」  めくるほどに、可愛い赤ちゃん。 「ほんとに髪ふさふさしてるね」  クスクス笑ってしまうと、玲央も頷きながら、だろ?と笑ってる。 「あ、この顔、玲央みたい」 「オレだってば」 「じゃなくて……今の玲央に通じてる気がする」 「そう?」  玲央は、面白そうにオレを見つめる。  お風呂に入れてもらってる時の、玲央の顔。  気持ち良さそう。目をつむってる感じが似てる。……似てるって変かな、でもなんか、玲央だなあって感じ。  アルバムの中で月日が経っていくと、玲央の目がどんどんぱっちりしていって、くりくり可愛くなっていく。 「玲央この頃、おめめくりくりなんだね。かわいー……」 「すごい久しぶりに見たけど……そうだったみたいだな」  オレが開いてる隣に玲央が座ってて、横から覗いてるのだけれど、なんだか苦笑い。 「……なんか、ちょっと恥ずい。オレ、コーヒー淹れてこようかな」 「え」 「見てていいよ」  ふんわり頭を撫でられて、玲央が立ち上がってしまった。  ……恥ずかしいんだ、玲央。……なんか可愛い。  ていうか、赤ちゃん玲央、可愛いよー。  抱っこしたかったなあ……。  オレもこの頃同じように赤ちゃんだったから当然無理なんだけど、そんなことを思ってしまう。  可愛いなぁ。  玲央の赤ちゃんもきっと、可愛いんだろうなあ。  と、そこでふと気付く。  んん。  ……ん、そっか。    ……オレと居たら、玲央の赤ちゃんは生まれないのか。  ……そっか。  ちょっとだけ複雑な気持ちになる。 「優月、砂糖入れる?」 「あ、ううん、牛乳だけ……」 「了解」 「ありがと」 「んー」  優しい玲央に答えながら、気を取り直す。  ……別に、今気づいたことじゃない。分かってた。  結婚も普通にはできないし、子供もできない。  ……今、オレの周りは皆優しいけど、これからの周りが皆、あんな風に受け入れてくれるかも分からない。  うん。分かってる。分かってるから、家族に言うのは緊張するし、容易くは、ないって思ってる訳だし。 「――――……」  んー……めっちゃくちゃ、可愛いなあ、玲央。  愛おしすぎる……。 「玲央、可愛すぎるよー」 「はは。そう?」 「うん」  ――――……玲央も、きっと、男同士ってことを考える時に、そういうのも考えてるはず。だから、今更なんだとは思う。赤ちゃん玲央が可愛すぎて、玲央の子供が可愛いだろうなあなんて思って、今更気にするなんて、バカだよね。気にしない気にしない。 「ね、玲央、赤ちゃんモデルとかやらなかったの?」 「……あー……」 「ん?」  微妙な返事に、玲央を振り返ると。  苦笑いとともに。 「そういや、やってたらしいよ。でもオレ、それ見たいことないから知らねえけど」 「え」 「親父とかじーちゃんの会社の広告とかに、赤ちゃんとか必要だった時は」 「そうなの?」 「そうらしい。まあ赤ちゃんの頃なんて、誰がやったって分かんないだろ? 大きくなって、顔がちゃんと分かるようになってからは、社長の息子を使うとかさ、親バカ孫バカ丸出しだから、やめたらしいけど」 「誰がやってもってことはないよー、絶対可愛いから、採用されたんだよ~」  分かる。可愛いもんなあ、赤ちゃんの玲央……。  天使みたい……。

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