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第588話◇
「ほんとに産毛って感じなんだな」
そんなことを言いながら楽しそうに笑ってる玲央は、スマホの写真をめくっては戻ったりして、ずっと見てる。
「すげーかわい」
とか言ってはくれてますけども、玲央ってば、すごく笑ってるけどね……。
まあいいけど。苦笑いしつつ、一緒にソファに戻って、オレはコーヒーを飲みながら、玲央が楽しそうなのを見つめる。
「……早くアルバム取ってこような」
きっとほんとに見たいんだなぁ、玲央、と思ったら、なんだかおかしい。
「でも優月が可愛かったのは、もう分かった」
そんな風に言ってまだずっと、スマホの写真を見てるし。
不意に、玲央がスマホを持って、オレの顔の横に並べて、じっと見比べ始めた。
「似てる……?」と聞くと、玲央は、ん、と笑う。
「似てるっていうか、優月本人だから似てるっていうのもおかしいけど……」
「そうだね」
「でも、面影、すげーあるんだな……赤んぼだけど、完全に優月だよな」
「……産毛だけどね?」
言うと、クスクス笑って、玲央がオレの頭を撫でる。
「双子も可愛かったんだろうな」
そう言われて、ふと、あの頃の記憶がよみがえる。
もう十歳だったし、衝撃的に可愛かったから、すごくよく覚えてる。
「ほんとにほんとに天使だと、思ってた」
「そっか」
「うん。笑うとほんとに可愛くてさ」
「うん」
「あ、双子も産毛だったよ」
「ん、そっか」
玲央は、オレの頬に触れながら、クスクス笑いながら、短く返事をして聞いてくれていたのだけど。
不意に、じっとオレを見つめる。
「ん?」
少し何か言いたそうな気がして、見上げていると。
「ちょっとコーヒー、よけていい?」
「うん」
玲央にコーヒーを渡すと、サイドテーブルに置いてる。
置くと同時に腕を引かれて、玲央に抱き寄せられた。
「――――……」
「……玲央?」
どしたんだろう。
玲央の頬が、オレの髪に触れてて、なんだか、すりすりされている。
「……どうしたの?」
なんか可愛く思えてしまいながら、そう聞くと。んー、と玲央が唸るみたいな声を出してる。
「……? 玲央?」
顔を見ようと思って、少し離れようとしたら、むぎゅ、と抱き締められてしまった。なんだかほんとに可愛くて、ちょっと可笑しくて。
「どしたの?」
背中にそっと腕を回して、すりすりさすっていると、玲央が、ふ、と笑った。
「……どうしようもないこと、言っていい?」
「――――……?? うん、いいよ」
むぎゅー、と抱き締めたまま、玲央が言ったのは。
「……オレはさ、もともとバイだったし、一人の誰かとそうなるとか、全く思ってなかったからいいんだけど」
「……?」
「優月はほんとなら、女と付き合って結婚して……とかだったのかなーと」
「――――……」
「……優月の子供だとすげえ可愛いだろうしなあとか」
「――――……」
「優月はほんとにいいのかって……思った」
「玲央……」
ぎゅーと抱き締められる。
「……でもだからって離してやろうとか思えないし」
「――――……」
「だから、どうしようもないこと、って言った」
苦笑いの気配の玲央に、オレは顔を上げて、背中の服を引っ張った。
やっと、オレを見てくれて、まっすぐ、見つめあう。
「おなじこと、思ってた」
「ん?」
「……玲央の赤ちゃん……可愛いだろうから、ほしいんじゃないかなーって」「――――……」
「でもそれも分かってる上で、こうなってるし……だから、気にしてもしょうがないってさっき思ってた」
……オレは、言わないことにしたけど。
――――……玲央は、言ってくれるんだ。そう思うと。
「……そういうの、言ってくれて、嬉しいかも……」
そう言うと、玲央は何とも言えない瞳でオレを見てから、オレの頬にキスして、それから、ぽふ、と肩に沈んできた。
「……言わない方が強いんじゃねえかな……?」
クス、と玲央は苦笑する。
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