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第589話◇

   言わない方が強いって何だろう? と思ってると、玲央がオレを見つめた。 「オレは、優月が後で改めて気づいて後悔したら困るから……今言っておいて……」 「――――……」 「覚悟してもらおうと思った感じ、かな。後に引き延ばすのが嫌だっただけ」  玲央と見つめ合いながら、玲央の言葉の意味を考える。  自然と、顔が綻んでしまった。  子供作れないから、やめといたほうがいい、じゃなくて。  作れないけど覚悟してほしい、なんだと思って。  一緒に居ない方がいいとか、そういう話じゃないんだ、と思ったら。  嬉しくなってしまった。 「……優月はネガティブな話しないで、そのまま過ごそうとしたんだろ。そっちのがいいな」 「……何で? 玲央のは覚悟してって話でしょ? ネガティブじゃないよ。ていうか……覚悟して一緒に居るってこと、言ってくれたのが嬉しい」 「……ん」  すぽ、と玲央の腕の中に引き込まれる。 「優月……何言ってんのって、思うかもしんねーけど。聞いて?」 「……うん」 「……オレ達の間で、どうしてもできないことってさ」 「うん……?」 「そういうこと、他にもきっとあると思うんだけど」 「……」 「それでも、オレと居るのが一番幸せって思ってくれるように、したい」 「――――……」  …………ぅわ。  もう。玲央……。 「……会ってそんなに経ってないし……付き合ったばっかりで何言ってんのって感じかもしれないけどさ」 「――――……」 「オレ、本気で、そう思ってるから」  言いながら、玲央がぎゅー、とオレを抱き締める。  ヤバい。  ……ヤバい、ちょっと、待って。 「――――……」  喉の奥が。  痛い。 「…………」  ぎゅ、としがみついて、我慢していたのだけど。  息を吸ったら、ちょっとすすり上げるみたいな感じになって。 「え?」  玲央に覗き込まれて、もうバレたと思った瞬間に我慢出来なくなって。  ぼろぼろ、涙が零れ落ちた。 「え、何、優月。ちょっと待って」  手を伸ばして、玲央がサイドテーブルにあったティッシュの箱を取って、オレに渡してくれる。  拭くんだけど、涙が止まらない。 「大丈夫か?」  玲央は、心配そうにじっと見つめて、オレの頭に手を置いて撫でてくれてる。 「……大丈夫じゃ、ない……」  鼻をかんでも、全然鼻声のままだけど、そう言ったら、玲央が苦笑い。  少し涙が止まって、ティッシュをゴミ箱に捨ててから。 「……玲央ー……」  手を、玲央の首に回して、ぎゅう、と、抱き付く。 「優月……」  笑んだ気配と、優しく抱き締め返してくれる腕に嬉しくなりながら。 「あのね? ……誰と居たって、できることと、できないことが、絶対あると思うんだよ、オレ」 「――――……」 「……もし女の人と結婚して子供ができたとしても、きっと他に何かできないことってあると思うし……。人ができることなんて、そんなにたくさんじゃないと思うんだよね……」 「……」 「……オレの最優先が、玲央と居たいってことだから……それをしたから、できないことがあるとしたって、それは、ほんとにいいよ……玲央と居て、できることをできたら、それでいいし」 「……」 「……玲央の赤ちゃん写真が可愛すぎたから、ちょっと、オレも思っちゃったけど……でも、そのせいで、玲央と居れなくなるなんて、やだから……」  そこまで言って、ぎゅう、と抱きついたら。  触れてる玲央の体が少し揺れて。笑ったのが分かる。

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