588 / 856
第589話◇
言わない方が強いって何だろう? と思ってると、玲央がオレを見つめた。
「オレは、優月が後で改めて気づいて後悔したら困るから……今言っておいて……」
「――――……」
「覚悟してもらおうと思った感じ、かな。後に引き延ばすのが嫌だっただけ」
玲央と見つめ合いながら、玲央の言葉の意味を考える。
自然と、顔が綻んでしまった。
子供作れないから、やめといたほうがいい、じゃなくて。
作れないけど覚悟してほしい、なんだと思って。
一緒に居ない方がいいとか、そういう話じゃないんだ、と思ったら。
嬉しくなってしまった。
「……優月はネガティブな話しないで、そのまま過ごそうとしたんだろ。そっちのがいいな」
「……何で? 玲央のは覚悟してって話でしょ? ネガティブじゃないよ。ていうか……覚悟して一緒に居るってこと、言ってくれたのが嬉しい」
「……ん」
すぽ、と玲央の腕の中に引き込まれる。
「優月……何言ってんのって、思うかもしんねーけど。聞いて?」
「……うん」
「……オレ達の間で、どうしてもできないことってさ」
「うん……?」
「そういうこと、他にもきっとあると思うんだけど」
「……」
「それでも、オレと居るのが一番幸せって思ってくれるように、したい」
「――――……」
…………ぅわ。
もう。玲央……。
「……会ってそんなに経ってないし……付き合ったばっかりで何言ってんのって感じかもしれないけどさ」
「――――……」
「オレ、本気で、そう思ってるから」
言いながら、玲央がぎゅー、とオレを抱き締める。
ヤバい。
……ヤバい、ちょっと、待って。
「――――……」
喉の奥が。
痛い。
「…………」
ぎゅ、としがみついて、我慢していたのだけど。
息を吸ったら、ちょっとすすり上げるみたいな感じになって。
「え?」
玲央に覗き込まれて、もうバレたと思った瞬間に我慢出来なくなって。
ぼろぼろ、涙が零れ落ちた。
「え、何、優月。ちょっと待って」
手を伸ばして、玲央がサイドテーブルにあったティッシュの箱を取って、オレに渡してくれる。
拭くんだけど、涙が止まらない。
「大丈夫か?」
玲央は、心配そうにじっと見つめて、オレの頭に手を置いて撫でてくれてる。
「……大丈夫じゃ、ない……」
鼻をかんでも、全然鼻声のままだけど、そう言ったら、玲央が苦笑い。
少し涙が止まって、ティッシュをゴミ箱に捨ててから。
「……玲央ー……」
手を、玲央の首に回して、ぎゅう、と、抱き付く。
「優月……」
笑んだ気配と、優しく抱き締め返してくれる腕に嬉しくなりながら。
「あのね? ……誰と居たって、できることと、できないことが、絶対あると思うんだよ、オレ」
「――――……」
「……もし女の人と結婚して子供ができたとしても、きっと他に何かできないことってあると思うし……。人ができることなんて、そんなにたくさんじゃないと思うんだよね……」
「……」
「……オレの最優先が、玲央と居たいってことだから……それをしたから、できないことがあるとしたって、それは、ほんとにいいよ……玲央と居て、できることをできたら、それでいいし」
「……」
「……玲央の赤ちゃん写真が可愛すぎたから、ちょっと、オレも思っちゃったけど……でも、そのせいで、玲央と居れなくなるなんて、やだから……」
そこまで言って、ぎゅう、と抱きついたら。
触れてる玲央の体が少し揺れて。笑ったのが分かる。
ともだちにシェアしよう!