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第591話◇
「……ん……」
玲央の、こういう時のキスは、優しい。
ベッドとかでされる、息もできないみたいなキスとは違ってて。
……そっちのキスも好きだけど。
「……んっ?」
かぷ、と舌をふざけて噛まれる。
びっくりして目を開けると、玲央がクスクス笑いながらまた、唇を合わせてくる。
「……ふふ」
玲央が悪戯っぽい顔してると、笑っちゃう。
「優月、キス、上手になったよな」
「……そう?」
それはちょっと恥ずかしいような。でも、嬉しいような?
「上手な人と、ずっとしてるからかな……?」
「――――……」
なんとなく言った一言に、玲央が目をぱちくりさせて、オレを見て、また笑う。
「その短い一言に、つっこみたいんだけど」
「……? いいよ、何?」
「……まず、オレ、上手?」
「え。あ、うん……」
「優月はさ、キス、初めてだったろ?」
「うん」
「誰とも比べてないのに、どう上手なの?」
「……えっと……どう……」
どうって……ええと。
ええと……。
なんか考えてるのに、玲央がじーっと見つめてくるから、ドキドキさせられて、なんだかよく分からなくなってくる。
「……玲央としてると……幸せだから? ……あ、あと、ぼーっとしちゃうから……?」
かなり困りながら、思うことだけを告げていくと、ますます玲央の瞳が楽しそうに緩む。
「じゃあ、ずっとしてるっていったけど…… オレ、そんなにしてる?」
クスクス笑いながら、そう言われる。
「……え、して、ないの?」
オレ、玲央は、すぐキスする人だと思ってるんだけど。
そう言ってる間にも、ちゅ、と頬にキスされる。
「オレ、そんなに、ずっとしてるつもりはないんだけど」
「え、そうなの?」
「結構我慢、してるんだけど」
「――――……」
え。あれで???
思わず、本気できょとん顔になったと思う。
その瞬間。ぷ、と吹き出した玲央に、またちゅ、と唇を重ねられる。
「あれで我慢してるの?っていう顔したな」
クスクス笑いながら、玲央がオレをじっと見つめる。
超超、至近距離で。
「学校ではしないようにしてるし。外では結構我慢してるし……」
……それは、「我慢」に入るんだ……。
と思うとちょっと可笑しくなってくるとともに。
「でも玲央、学校の近くでも、結構してる気が……」
「え? してる??」
今度は玲央にきょとんとされる。
「いや……クロのとことか……? ……トイレ……とか??」
そう言うと、玲央は、あー-……そういえば。と固まってる。
「……してる?」
「う、うん……してる、ような」
「……でも、我慢してる気分のが強いんだけど、オレ」
じー、と見つめ合いながら、んー、と考える。
「……逆に、いつ我慢してる気分?」
「食堂とか? 外で会った時とか??」
「それって、周りに、いっぱい人が居る時だよね?」
「そう」
「……そういう時も、キスしたいって、思ってる時があるの?」
「あるよ」
「なるほど……なら、我慢してくれてるのかも」
そう言ったところで、二人で、なんだか言葉を失って。
見つめ合っていたけれど、ふ、と揃って笑ってしまう。
「まいっか……優月、オレとキスするの、好き?」
「うん。好き」
柔らかく、触れるだけのキスが重なる。
「優月、ちょっといい?」
「うん」
「……今からアルバム見て、コーヒー飲んで」
「うんうん」
「そしたら一緒にシャワー浴びにいこ?」
「……うん」
ドキドキ。
「……我慢しないで触らせて」
クスクス笑う玲央の手が、オレの頬をすりすり撫でる。
めちゃくちゃドキドキするんだけど。
うん、と頷いた。
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