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第594話◇

「オレは別に、においしなくてもいいけどね?」  オレは、玲央の言葉に、そう返しながら、クスクス笑ってしまう。 「でも、玲央はこの香り、好きなんでしょ?」 「……好きだから、優月からすると、嬉しいけど」  そう言ってから、玲央はいったん言葉を切った。 「……まあ。冗談なんだけどさ」    そう言いながら、玲央がクスクス笑う。 「優月からこの香りがしたからって誰かが吸い込まれるっていうことはないと思うけど……まあオレくらい?」 「あ、玲央、吸い込まれてくれるの?」 「ん」 「そうなんだ」  あは、面白いなあ。 「……あー、なんか。優月が好かれるのは嬉しいし、優月が誰かのところに行くとかも思ってないし。行かせるつもりもないけど……」 「……けど?」 「……ちょっと心配になるっていうのは、本当かも」  言いながら、でも玲央、ちょっと笑ってるし。 「何で笑ってるの?」 「オレがこんなこと言ってるの、優月以外が聞いたら、すごいことになるんだろうなーと思ったら、笑えて来た」 「……そっか」 「まあ最近いつもオレ、こんなこと考えてる気がしてるけどな」  そう言いながら、玲央がシャワーを手に取る。 「流すから、頭下げてて」 「うん」  下を向いて、泡が流れていくのを感じていると、しばらくして、玲央が、もういいよ、と言ってくれた。   「ありがと」  顔を上げて、髪を掻き上げると。 「髪上がってるのも、可愛い」  そう言われて、額にキスされる。  ……髪、上がってる、の、も。  こういうところで、「も」て言えちゃうところ。  ほんと、なんか、すごいなあと思ってしまう。  ……玲央は、他の人には可愛いとか言ってないとか言ってて、それはもしかしたらそうなのかなとは思ってる。  セフレの人達に執着されたくないからっていう理由があったみたいだから、敢えて言ってなかったっていうのは本当なんだろうなって。……それでもなんとなく色んな所で、玲央は優しいだろうから。だからきっとその人達、玲央とのセフレをやめようってことにならなかったんじゃないかなあ……と、勝手に思ってる。  ただカッコいいからとか。  ただ、そういうことが、上手だからとか。  なんかそういうのだけじゃなくて。  ……玲央のこと、ちゃんと好きだった人達も、きっと、玲央が思っているよりも、たくさんいたんじゃないかなあ……。  と、そんなことを思いながら、オレの額や顔にキスしてる玲央を見上げると。  ……ほんと濡れてるカッコいい人って。  死ぬほどカッコいいなあと、毎回のように思うことを、また思い知らされる。  やっぱり、この、お風呂で濡れてる玲央を見るだけでも、玲央と居たいって思えてしまうかもしれない……なんて思ってしまう。ドキドキ。 「あ、そういえばさ?」 「うん?」  じっと見つめられると、ドキドキしてしまう。  ……いつもカッコいいけど。濡れてる玲央は、色っぽくて。 「優月がもともと使ってたシャンプーは?」 「オレが使ってたのは、実家で母さんが使ってた、ごくごく普通のシャンプーだから」 「こだわりはない?」 「全然ないよ」 「好きなのあったら、それにしてもいいからな?」 「うん。ていうか……玲央の好きなシャンプーでいられた方が嬉しいかも」 「――――……」 「好きな人と同じ香りとか、すごく嬉しいし。これ、きっと、オレが髪長かったら、自分でも香るんだろうなーと思ってさぁ」 「……ん? 髪、ロングにするの?」 「え。オレ、似合う?」 「……どうだろう…… やってみるか? 一回」 「ええええ……どうだろうー??」  似合うかな、髪、ロング……??  ちょっと真剣に思い浮かべて、えええ、と首をかしげていたら、玲央は、ぷ、と吹き出した。 「嘘だよ、なんかそれは違う気がする」  クックッと笑いながら、玲央がオレの頬に触れて、髪の毛に触れる。 「今のこれが、すごく似合ってる気がするけど……」 「……あ、でもそろそろちょっと切ろうかなって思ってて」 「そうなのか?」 「うん。前髪ちょっと目にかかるような気がしてて」 「――――……」  じー、と玲央に見つめられる。 「楽しみかも」  クスクス笑いながら、玲央がオレの前髪をちょっとつまむ。 「産毛からちゃんと生えてよかったな?」 「! もーなにそれ」    クスクス笑ってしまうと、玲央も、「可愛すぎたから、頭から消えないんだよ」と笑う。

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