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第595話◇

 位置をかわって、今度はオレが玲央の頭を洗い始める。 「ねー玲央、不思議なんだけどさ」 「ん?」 「どうして赤ちゃんの時さ、ふさふさの子と、産毛しかない子がいるのかなあ」 「不思議なの、そこ?」  玲央はクスクス笑ってる。 「それ、オレに聞かれてもな……」 「だって、産まれた毛って書くからには、やっぱり赤ちゃんの時は産毛が正しいんじゃないのかなあ? どう思う?」 「じゃあオレのふさふさは正しくないのか?」  玲央が、ふ、と吹き出してる。 「ううん、そういうんじゃない」  クスクス笑ってしまいながら。 「でも玲央のふさふさはさ、もう産毛じゃないかなあって。あれは確実にもう髪の毛だよねぇ?」 「……そう、だな。おなかン中で髪のびてたんだろうな……」  玲央が可笑しそうに笑ってるので、オレもまた笑ってしまう。 「玲央が可愛すぎたっていうのが、今日の一番の感想だけどね」  そう言うと、玲央は「オレは優月が優月だったことに感動したけど」と言って、笑う。 「感動したの?」  ふふ、と笑んで聞くと、「した」と返ってくる。  感動かあ……。 「オレは、玲央が可愛すぎて、あんなにちっちゃい頃から、バンドの皆が一緒だったってことに、感動したかも……」 「まあでも、ずっと同じクラスじゃなかったし、離れてた時だってあるけどな」 「それはそうだよね。クラス変わると、会わなかったりするもんね」 「あのメンバーで長く一緒に居ることが多くなったのは、バンド、ちゃんとやり始めてからって気がするよ」 「そうなんだね。……いいよね、あんな可愛い頃から一緒でさ、今もバンドで歌ったり、皆で出来て」 「……いいなとかは思ったこと無かったな。ていうか、あんなちっちゃい頃の写真も、居たんだなーって感じだし。まあ居たのは知ってるけど、実感してなかった」 「……玲央、ほんとに見てなかったんだね」 「見てなかったよ」  なんか玲央らしくて笑っちゃう。 「玲央、かゆいとこある?」 「無いよ」  いつも通り少し笑いを含む声で、玲央が笑う。 「ちょっと下向いててね~?」 「ん」  下を向いた玲央の髪を流していく。  泡が全部流れて、玲央が顔を起こすと前髪を掻き上げて、オレを見上げてくる。  あんなに可愛かった子が、今は、もう、こんなにこんなに、カッコいいんだもんな。  あ、でも玲央は、小さい頃から顔整ってたな……。さすがだなぁと、じーと、見つめていると。 「んー……優月?」 「うん?」 「選んで?」 「うん……?」  じっと見つめられる。ドキドキ、するのはいつもどおり。 「オレに洗ってほしい? 自分で洗いたい?」 「――――……」  理解した瞬間、顔、熱くなる。  そんなの、言えるのはもう決まってる。 「あの……自分で……」 「まあ。そういうと思って聞いてみたけど……やっぱり洗っていい?」  クスクス笑いながら、玲央が立ち上がる。 「背中流してあげるから。座って」 「……う。ん」  ボディスポンジを泡立てて、優しく背中、現れる。  ドキドキドキドキ……。  ……ていうか。  背中洗われてるだけでも、なんか……下手すると、ゾクゾクしそうで。 「……せ、背中だけでいいよ?……」 「――――……」  玲央を少し振り返って、思わず言ってしまう。 「遠慮しなくていいよ」  クスクス笑いながら玲央が言って、オレの手を取って、腕をする、と洗い始める。 「…………っ」  不意打ち。  ……ていうか、何で腕、洗われた位で、体、ゾクッとするんだろう。  気のせい気のせい。いつも自分で洗ってることを、ただ玲央がしてくれてるだけで。ぞくぞくするのは、気のせい。大丈夫と言い聞かせつつ。  ……ていうか、オレ、遠慮してる訳ではないんだけど……。うう。  どうしようーと、思っていると、後ろで玲央が、ふ、と笑う気配。 「……っ……??」  何で笑われてるの、と思って、ちょっと泣きそうになって、振り返ると。 「肩がプルプルしてるのが、可愛すぎて……」  クッと笑いながら、玲央がオレの肩をなぞる。 「ひゃ」  ぞく、とするのはもう、気のせいじゃない。  ……なんかもう玲央に触られるの、全部、ゾクゾクする。 「オレ、まだ変なことしてないんだけどなぁ……」  後ろから聞こえる玲央の声は、なんだかもうすでに甘く聞こえ来て。  うぅー……。 ぎゅ、と瞳をつむってしまう。  ……まだって……。  …………まだって言っちゃってますけど……。  ドキドキで、また、心臓が痛い……。    

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