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第599話◇
そういえば、最初の頃に頑張ってしてからは、玲央に、今度でいいよと言われ続けていたっけ。しばらくあいてしまったけど、よし、再チャレンジでやってみよう! と思って意気込んでいたら。
「あー、ちょっと待って。オレ体洗うから」
「…………」
やる気満々だったのに、急に待てをされたワンコの気分……。
なんとなくバスタブに腰かけて、手早く体を洗ってる玲央の後ろ姿を見る。
……後ろ姿だけでも、カッコいいなあ。
…………オレ、いつも、この背中にぎゅー、て抱き付いてるんだよなぁ。
うう……。またドキドキしてきちゃった。いつまでオレ、こんななんだろう。普通に生きてきて、ここまでドキドキすることって、そうそうなかったと思うよね。ほんと毎回、ドキドキはいつしなくなるんだろうって……。
玲央は、いつでも強烈。立ってるだけでも。何してても絵になるし。
……玲央と向かい合って、緊張しない人たちって、居るのかな。
勇紀たちは緊張しなそう。友達だからかな? 稔なんて絶対平気そう。蒼くんも。……ていうか、蒼くんは、蒼くん自体もなんか特殊だからな。智也も平気そう。美咲は、むしろ最初敵意を燃やしてたから、ドキドキじゃないだろうなあ……。
…………あれ、周りの人達は、意外と平気そうだな。おかしいな……。
えーと……あ、コンビニのおばちゃんたちはきゃあきゃあしてた。
それに、いっつも一緒に居ると、玲央って色んな人達に見られてるし。絶対あの女の子達は、ドキドキしてるんだと思うんだけど。
オレも、最初から、ドキドキしてたよね。
こんなに長く一緒に居てもらっても、ドキドキがほんとにすごくて。
体を洗い終えた玲央が、シャワーで泡を流していくと、今まで泡で隠れていた肌色が出てきて、ますます緊張する。
きゅ、とシャワーを止める音がして。
振り返った玲央を見上げられず、カチンと固まってると。
「……優月? どした?」
笑いを含んだ声がして、手が頬に触れてきた。やむを得ず、見上げると、なんかもう。
「……玲央って」
「うん?」
「……あれ、みたい。あれ……」
「あれ?」
「……って出てこないはずないのに……えっと……あの」
「んん?」
「あ、分かった。玲央ってね、彫刻、みたいだなって」
「――――……」
「あの、教科書に載るような感じ……」
しーん、と静かになった後。
ぶは、と吹き出して、完璧カッコいいはずの玲央は、めちゃくちゃ楽しそうに笑い出した。なんか、ヒーヒー言って笑ってる。楽しそうで良いけど、なんか、ちょっと笑いすぎ。……もー。
「何でそんなに笑うの?」
「っ……なに言うのかと思ったら……優月が、玲央って、とか言う時は割と変なこと言うからさ、結構ちゃんと構えてたんだけど。ダメだった」
そんなことを言いながら、まだ笑ってる。
玲央が結構笑い上戸だって、皆に言ったら、分かってくれるかな。
もう……。
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