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第604話◇
リビングに戻ってきて電気をつけてすぐに「優月、水飲みな」と言うと。
「うん。ていうか、オレばっかりじゃなくて玲央も飲もうよ」
クスクス笑いながら優月が言う。
バスルームで散々喘がせて、のぼせさせたから、優月は余計。
……と思ったんだけど、また真っ赤になりそうだから、とりあえずやめといた。
冷蔵庫から水を出して、優月に渡したところで、テーブルに置いていた優月のスマホが震えた。
「……あ。蒼くんだ」
画面で確認して、スマホを手に取ると、少しの間いじってから。
「あ、玲央も何か来てるよ」
「ん」
隣に並んでたオレのスマホをカウンターの前に居たオレの所に持ってきた。
二人で並んでしばらく見てから。
「蒼くんが明日ごはん行こうって」
「ん……こっちもあいつらが明日、向こうのマンションで曲仕上げようだって。で、明後日、練習場所取ったから演奏してみるかって言ってる」
二人で見つめあって、ん、と頷き合う。
「じゃあ、そうしよっか。蒼くんに返事しとくね」
「そうだな」
「玲央も来てもいいぞって言ってたけど……」
「また今度って言っといて?」
「うん」
少しの間、お互い返事を打ってから、優月がふ、と笑った。
「蒼くん、車で送るから心配すんなって玲央に言っとけ、だって」
「ああ。了解」
クスクス玲央も笑う。
「あっちのマンションに送ってもらってこいよ。明日はあっちに泊まるかもだから」
「あ、うん。分かった。じゃあ洋服持ってった方がいいよね。あ。学校の準備も?」
「いいよ。オレが学校終わったら服とかは車で運んどく。水曜は朝こっち戻ってから学校行こ」
「うん」
やり取りを終えたスマホをカウンターに置いて、水を口にしてると、優月がふとオレを見上げた。
「そしたら、明日と明後日は別々だね。明後日、オレ智也達とご飯行っちゃうし」
「……そうだな」
まあ……お互いやることもあるし、そんなのは仕方ないんだけど。
そう思いながらも、少し寂しいけど、これは言うべきじゃねーかなとか、諸々頭に浮かんでは消えていく。
すると、優月がふ、とオレの腰に触れたと思ったら、なんだか、すりすりと柔らかい感じで、腕の中に潜り込んでくる。
……猫か、うさぎか、丸い感じの子犬とか。
なんだかよく分からないけど、そんなイメージが浮かんでくる。
愛しくて、潜り込んできた優月を、抱き締めると。
「……んー。……ごめんね、ちょっと寂しいかもしれない、オレ……」
「――――……」
「って……行くのとかはもちろん楽しいんだけどね。玲央が居ないのが。寂しいかなって」
「……ほんと、お前って……」
「……?」
ぎゅうう、と抱き締めてしまう。
あー。可愛い。
なんなの。これ。
……これ、可愛くない奴とか、この世に居んの?
居ないよな。みんな、きっと、可愛いって思うよな。
……こういう寂しいとか、言われんのがもともとは絶対好きじゃなかったオレが、こんなに可愛いと思うんだから、絶対誰もがそう思うはず。
自分でもよく分からない納得の仕方をしてしまう。
「……優月、他の奴にそれ言うなよ」
「――――……」
しばらく無言の後。
「え?」
と、優月がオレを見上げてくる。
「……玲央にしか思わないから言わない、よ?」
「ん」
不思議そうな表情が、また可愛いので。
きゅ、とまた腕の中に閉じ込める。
「それなら良い」
「……ふふ。何それ」
クスクス笑いながら、優月が、すり、とすり寄ってくる。
「……可愛いから、他の奴に言うなよってこと」
「…………ますます何それ」
優月が笑ってるのが、ほんと、可愛い。
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