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第605話◇
寝る準備を終えて、一緒に寝室に入ると、小さいサイドランプだけにした。
「優月、眠いんだっけ?」
「ん? あ、さっきは眠かったけど。今は平気」
どうするかなあ。
オレはいつでも優月としたいけど。される優月は多少体に負担かかりそうだしな。
触れるかどうするか少し迷いながら、自分がこんなことを迷ってること自体おかしすぎると思っていたら、ベッドに座った優月がオレを見上げる。
「そうだ、玲央の歌とライブの映像も見たいって言ってたのに、今日見れなかったからさ。今度見せて?」
「ん。ああ。良いよ」
「玲央の赤ちゃんが可愛すぎて、そっちばっかり夢中になっちゃって、忘れてた」
また思い出しているのか、ふふ、とかすごく楽しそうに笑ってる。
「……」
……何か。
無邪気過ぎて、毒気が抜かれる。
…………何だろうなあ、この可愛いの。
抱こうかやめようかとか、超即物的なこと考えてた立場とすると。もう無邪気過ぎて、赤ん坊の頃の写真を思い出して嬉しそうに笑ってる優月が、なんだか清い天使か何かに見える気がする。
……こういうとこが、なんか、オレがどんなに乱しても、汚れないと思ってしまうところ、な気がする。どうやっても、汚せない、ような。
「……」
ふ、と笑みが浮かんだことに、笑ってしまってから気づく。
優月と会ってから、増えた。
自然と、笑うこと。
別に前だって、笑っていたとは思う。勇紀や甲斐や颯也、稔、その他大勢と、バカ騒ぎもしてたし、楽しいと思うことを一緒にしていたと思うし、笑っていたとは思う。
でも何だろう、誰かを見て、思って、自然と静かに微笑むみたいなことは、無かったような気がする。……あったのかな。でも、今みたいに頻繁に、自分が気づくような頻度ではなかったはず。
いつも、何かを思うより先に、ふ、と顔が綻ぶ。
そんな穏やかな感じは、優月と居るようになってから。
「玲央が可愛すぎるからすっかり夢中になっちゃって、忘れちゃったんだよね。音楽かけながら見ても良かったのにね。……あ、でも歌詞も見ながら聞きたいから、やっぱり何かしながらは無理かも……」
何だかぶつぶつ言いながら、自分で納得しながら、布団に足を入れて、オレが入ってくるのを待ってる。
「でも曲も覚えたいから、明日からさ、ご飯の時とか、曲かけよう?」
「……ん、いいよ」
見上げてくるのが可愛く思えて、隣に入ると同時に、ぎゅ、と抱き締めた。
「……玲央?」
「結構曲数あるけど」
「そうなの?」
「覚えられる?」
「んー……頑張るね!」
そう言いながら、ぎゅ、とくっついてくる。
ふ、と、自分がまた笑ったことに気が付く。
「ん、頑張って」
「……あ。違うかも」
「違う?」
「頑張らなくても、覚えられると思う。玲央の歌、大好きだから」
「――――……」
そんなことを言って、自分で嬉しそうに、ふふ、と笑ってる気配がする。
……だから。
……可愛いと思わない奴。居ないよな。
もしかしたら、オレらの曲を好きな奴は皆、オレの歌を好きかもしれないし。オレと居た今までの奴らも、もしかしたら、オレのことを好きで居てくれたのかも、知れないけど。
……多分、優月みたいに、まっすぐ。思ってることを口にするのって。簡単じゃない。
自然と苦じゃなく、それをする優月がすごいなと思うんだよな……。
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