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第608話■番外編■クリスマス1
クリスマスが近い。
青いイルミネーションを見に行くことにして、玲央と待ち合わせた。今日は午前中から二人とも別々の用事があって、駅で待ち合わせ。
オレの方が先についたみたいで、玲央に「着いたよ」と入れて、顔をあげた時。ふわ、と白いものが落ちてきた。
あ。雪だ……。
空を見上げると、まだ淡い淡い、結晶。
すごい綺麗。
クリスマスに降ったら、ホワイトクリスマスだなあ……それもいいなぁ。
今日、初雪だ。朝からめちゃくちゃ寒かったもんね。
手を差し出したら、雪が手の平に乗って、すぐに溶けた。
早く来ないかな、玲央。
雪、やむ前に。
一緒に見たいなあ。
思った時に、スマホが震え出した。
「もしもし?」
『優月? どこ? もう来てるけど、人が多くて』
「えと……横にポストがある」
目印になるような物がそれしかなくて、分かるかなと思いながら言ったら、クスクス笑う玲央に「ポスト?」と言われた。でもすぐに「あった。優月見えた。待ってて」と言われた。
どこだろ、玲央。
思って、周りを見た瞬間に、玲央が目に入る。駅から続く階段から、降りてくる。
「――――……」
ていうか。
……目立つ人だな、ほんと。
人、ものすごくいっぱい居るんだけど。
玲央しか見えない……みたいな気がする。
「ごめんな、寒かった?」
オレだけじゃなくて、なんとなく周りの人も絶対玲央を見てるような気がするんだけど。
まっすぐオレに向かってきてくれて、オレだけに笑ってくれるのって。
……すごい嬉しい。
「ほっぺ赤い」
クスクス笑って、玲央がオレの頬に触れる。
絶対見られてるんだけど。
……玲央は全然気づいてない。
両手ですりすり温められて、「玲央の手、暖かいね」と言うと。
「あ、そうそう。これあげる」
ポケットから、何かを取り出して、手に持たせてくれる。
「カイロ貰ったんだ、これ握ってたから、手暖かい」
むぎゅー、とほっぺを挟まれて、暖められるけど。
ちょっとさすがに人目が……。
「玲央、歩こ?」
「ん」
一緒に歩き始めてすぐ、「優月、手」と言われて、「手?」と差し出すと、ぎゅと握られる。
「――――……」
なんだかな。
胸がいっぱいで、言葉が出ない。
「こっちの手の方が暖かいだろ?」
「うん」
なんだろうな。手も暖かいんだけど。
……気持ちもぽかぽかする。
「初雪だよな」
玲央が空を見上げながら言う。
「うん」
そうなんだよ、初雪なんだよ。
玲央とみたいなって、思ってたんだよー、と、心の中で、言葉がいっぱいなんだけど。なんだか、口に出てこない。
イルミネーションスポットはもう少し先なんだけど、歩いてる街はもう全部綺麗だし。……玲央の手は暖かいし。雪は、綺麗だし。
なんだろう。幸せすぎて、言葉が出ないとか。玲央と居るとたまにある。
「――――……なんか静か? 優月」
玲央が不意にオレを覗いてきた。
「ううん」
首を振って、笑って見せる。
クスッと笑った玲央に、くいくいと手を引かれて、少し道路の端に。
「?」
見上げた瞬間。
ほんとに一瞬、ちゅ、とキスされた。
多分、誰もこっちは見てない。と思うけど。
キラキラした歩道で、ひといっぱいなとこで。
オレにキスした、めちゃくちゃカッコいい人は。
クスクス笑うと、またオレの手を引いて歩き出した。
「可愛いんだもん。ごめんな」
「――――……」
全然。ごめんじゃないし。
「……玲央」
「ん?」
「ありがと」
そう言うと、「ありがと?」と言って玲央が笑う。
「うん。オレと居てくれてありがと」
そう言うと、玲央はちょっと不思議そうにオレを見てから。
「ずっと居るけどな?」
と笑った。
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