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第613話■番外編■クリスマス6 完
「なあ、クリスマスケーキ、ローソクついてたから自然と立てたんだけど……これ火消す?」
「誕生日じゃないからな……」
勇紀の質問に、甲斐が笑いながら答えてるけど。
「まあいいんじゃね? 玲央と優月で消したら?」
そんな風に言って、甲斐が笑うと、皆、それでいいじゃん、とノリノリ。
良く分かんないけど、ローソクを立てたケーキを二つ、玲央とオレの前に並べて、稔が電気を消しに行った。
「初めての共同作業、みたいな?……って、別に初めてじゃねえか」
クスクス笑って言いながら、稔が戻ってくる。
勇紀が玲央とオレの目の前に立って、スマホのカメラを向けてくる。
「動画?」
「そ、動画」
玲央が聞くと、勇紀はふふ、と笑ってる。
「何歌う? 誕生日の歌じゃなんだしなー?」
「歌う必要あんの、クリスマス」
勇紀が言うと、颯也が笑って答えるけど。
「なんとなく歌いたくなんねえ?」
勇紀の言葉に、まあそうだなー、と皆納得してる。
「あれ歌う? クリスマスのライブん時に歌ったやつ」
甲斐が言うと、オレと稔以外は頷いてて。玲央がオレを見て、ふ、と笑う。
「洋楽のクリスマスソング。日本ではそんなに有名じゃないんだけど、いい歌でさ。練習して一回だけ歌ったんだよ」
「何ていう曲?」
そう聞くと、玲央が答えてくれたけど、知らない曲だった。
「優月は聞いてて。稔は出来たら手拍子な」
勇紀の声に、稔は了解、と笑う。ずれたらごめんとか言ってる。
玲央が歌いだして、皆もそれに合わせて歌う。
……これってやっぱり、めちゃくちゃ、ぜいたくなのでは。
そんな風に思いながら、歌を聞く。
知らない曲だったけどすごく良い曲で。……カッコよくて。
聞き惚れてる内に、終わってしまった。
もっと聞いてたかったなあと思っていると。
「優月、ほら。せーの」
勇紀の声に、玲央と視線を一瞬あわせてから、ふ、とろうそくを吹き消した。誰かが口笛吹いたり、こういうの盛り上げるのがうまいのは、皆さすがな感じで。
また稔が電気をつけに行って、勇紀が笑いながら「皆に送っといたから後で見てね」と言ってスマホを置いた。
それから皆でケーキを食べて、プレゼント交換をした。
今日は皆が帰ると言うので皆で片付けた。下まで見送りに行って、皆と別れて部屋に戻ると、急に、すっごく静かで。
玲央もそう思ったみたいで、「いなくなるとものすごい静かだな」と笑った。
「ね。楽しかったね」
「なら良かった」
「うん」
二人でなんとなく時計を見て、目が合うと。
「寝る? 優月」
「……んー。も少し」
言うと、玲央がクス、と笑う。
「なんか飲む?」
「うん」
「ミルクティー?」
「うん」
紅茶を入れて、二人で、クリスマスツリーの側に座ることにした。
電気を消して、ツリーのライトだけ。
くっついて、隣に座る。
「……明日どうする?」
「んー。どうしたい?」
「……んー……クリスマスっぽいこと、全部しちゃったもんね」
クスクス笑って言うと、玲央も笑ってから。
「でもあれは大騒ぎで皆とだったし。優月と二人で静かにするのもいいかも」
「……そだね」
「どっか、デートに行ってもいいよな……」
「……うん」
うんうん、と頷くと、玲央はオレの手に触れる。
「手つないで歩こ」
「……うん」
ふ、と笑って頷くと、玲央がまた少しだけ近づいた気がして、顔を上げると。
「――――……」
ゆっくりゆっくり、キスされる。
「……優月」
きゅ、と少し力が入って、ラグの上で重なる手。
もう片方の手が、オレの頬に触れて、少し上向いたところで止められる。
「…………サンタ帽、似合ってた」
見つめられて、なんて言われるのだろうとドキドキしてたら、そんなセリフで。
……数秒瞬きしてから、ぷは、と笑ってしまった。
「……玲央も。似合ってたよ?」
クスクス笑いながら言うと、オレはいい、とか言って笑う。
「サンタのコスプレさせようかなぁ……優月に」
「……ええ……??」
「明日買おうか」
「……えええ……」
「嫌?」
聞かれて、自分のサンタコスプレを想像して。
……えええ、と固まってると、玲央が、ぷ、と吹き出した。
「あー、またからかってるでしょ……」
「からかってないよ、本気で言ってたけど……あんまりおもしろい顔して悩むから……」
クックッと笑って、玲央が、オレを抱き寄せて、ぎゅー、と抱き締めた。
「絶対可愛いし……エロいと思うんだけどなあ……」
クスクス笑いながら、そんなこと、言う。
「……」
むむ。
どうなんだろうと、ものすごく悩むんだけど。
……玲央が喜ぶなら……とか、若干思ってしまうオレ。
いやいや、どうなんだろ、それって。女の子がすれば可愛いかもだけど……。うううううーん……?
「あ。まだ悩んでる?」
ぷぷ、と笑って、オレを覗き込んでくる玲央。
「嘘だよ」
「……嘘なの?」
「いや、嘘じゃないな」
「え。どっち……?」
「……嘘じゃなくて、着せたいけど、悩んでるから……」
クスクス笑いながら、オレに、キスしてくる。
オレがちょっぴりだけ覚悟を決めて、玲央を見上げる。
「……ちゃ」
「ちゃ?」
玲央が首を傾げてオレを見つめる。
「オレ、チャレンジ……する……?」
「――――……」
玲央は、また吹き出して。
今度は、オレの肩に顔をうずめて、ずーっと、クックッと笑ってる。
「……なんかもう、ほんと優月って――――……ああ、可愛いな、もう」
ぎゅー、と抱き締めてくれるけど、まだ笑ってる。
「サンタ着て、オレに何されるか、分かってる?」
「…………っ……なんとなくは、分かってるけど」
「けど?」
「……その気に、なるのかなって……疑問だけど」
オレがそう言うと、ああもう無理、みたいな感じのことを言いながら、さらに笑ってる玲央に、さすがにちょっとむくれていると。
「分かってないなー優月……」
「――――……」
玲央はオレの頬を両手ですくい上げると、じっと見つめてくる。
「……寝かせてあげないかもよ? 可愛くて」
「――――……っ」
ぼん、と真っ赤になるオレ。
……っていうか、しょうがないと思うんだよ、オレが赤くなるの。
ほんとに。玲央は。
何でそんなに恥ずかしいこと、平気な感じでカッコよく言えちゃんうだろう、もう。
「……可愛いなぁ」
あっつい頬に、ちゅうちゅうキスして、玲央が笑ってる。
笑いながら、ゆっくり、また唇が触れてくる。
「……優月が着てもいいよって言うのあったら、買おうかなぁ……」
唇の間で囁かれるそんな言葉に、オレも何だか面白くなってきてしまって。
「じゃあ玲央は……トナカイさんとかは……?」
「――――……却下」
二秒で却下されたけど。
二人で笑い合って、また唇が触れる。
その日はそのまましばらく、クリスマスツリーのピカピカ綺麗なライトの中で、くっついて、色々話してた。
翌日のクリスマスイブに、
オレがサンタさんになったかどうかは。
秘密、ね。
- Fin -
(2022/12/31)
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