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第618話◇

「あった」  話しながらノートを探していたオレは、欲しいのを見つけて手に取った。 「奏人のは見つかった?」 「ん。これ」 「買いに行く?」  言いながらレジへと歩き出す。  ……変な感じ。奏人と一緒に、買い物、とか。……そんなこと言ったら、なんて言うんだろ。たまたま会って、たまたま買うのが一緒になっただけだって、怒られるかな。そんなことを思いながら、レジを終える。  ……待ってた方がいい? 行っちゃった方がいい? 一瞬考えるけど、なんとなく、待ってることにした。  先行けよって言われるかなあと少し思ったけど、結局言われなくて、買い終えた奏人はオレをちらっと見て、出よう、みたいな目線。  待ってて良かった。と、ちょっと思いつつ。  ……なんか、変に気を使ってる自分に気づいて、苦笑い。こんなに気を使っちゃうのは逆によくない気がする。普通が良いよね。……なんか、奏人の方が、普通にしてくれてる気がする。  購買を出てから、なんとなく入り口から離れて、少し道から逸れたところで立ち止まった。 「……今、時間少しあるか? お前、なかなか会わないから言っとく」  そう聞かれて、何だろう、と思いながら、頷くと。 「玲央にそういう連絡とらなくなって少し経ってさ」 「……うん」 「ほんと落ち着いたから」  なんて言っていいか考えた末、しばらく経ってから、うん、と頷く。 「……本気になったら終わりって話してたし。オレもそれでいいと思ってた。本気で好きじゃないって態度で、色んなこと、平気な感じで過ごしてたけど」 「――――……」 「……でも結局、好きなのはバレてただろうし、そんなんじゃ本気になんてなってもらえなかったよな、ていうのも、今なら分かる」 「……奏人」  何とも言えない。  ……オレだって、終わりにしたくなくて言えなかった。好きって。  好きって言えなくて、嫌いじゃないとか、言ってたりした記憶が蘇る。 「……思ってることは言った方がいいって、思った」 「……うん」  奏人って、ほんと顔、綺麗。  それが、まっすぐ、こっちを見つめてくると、ちょっと見惚れてしまう。  なんか今は、本当にまっすぐな言葉を、まっすぐ伝えてくるから、余計。 「……て、何?」 「え」 「なに見惚れてンの?」 「……あ、ごめん、つい……」  言うと、「ほんとに見惚れてたの?」と聞かれて、もうなんか「うん」としか言えなかった。 「……変な奴」    苦笑いで見られる。でも、そんな顔も、ほんと綺麗というか。  ……玲央と一緒に会ってた時より、なんだか、カッコよくなったような気がする。 「もう良いから。お前のことも玲央のことも。オレ今、普通に挨拶とかしてるし。もう、そういう意味ではどーでもいいから」  なんだか言い方、奏人っぽい気がして、笑ってしまう。  どうでもいいとか、そういうことじゃないんだろうけど。  ……そんなによく知らない人なのに、でもなんか、ぽい、気がする。 「って言ってもさ……オレに諦めさせて、一緒になったんだから、頑張れよなって感じはある」 「……うん」 「あの玲央とずっと付き合っていけるなら、お前のことすごいと思うかも」 「……玲央って、そんな感じ?」 「オレの前の玲央は、そんな感じ。執着とか絶対しないだろうし、されるのも嫌って感じだった」 「そっか……」  小さく頷いていると。 「三か月続いたら」 「……?」 「褒めてやるよ」  ふ、と笑われて。またすごく、それが何だか、カッコいい笑顔だったりするので。オレは、自然と微笑んで、うん、と、頷いた。

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