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第619話◇

 何だかとってもいい感じで笑い合って、奏人と別れてきて、食堂に向かって歩く。  ……奏人は、ほんとに玲央のこと好きだったんだろうなと、改めて思うけど。  なんか。……オレ。何回か、奏人と、話して思うのは。  ……なんか、すっごく奏人のこと……。  考えながら、少し早歩きで歩いていたら、角を曲がったところで玲央と勇紀に遭遇。 「あっ」 「優月? どした? 急いでる?」  嬉しそうな顔で、ふわっと笑った玲央に、オレも嬉しくなってめちゃくちゃ笑ってしまった。うん、と頷いてから、勇紀に「おはよ、勇紀」と話しかけた。 「おはよ。優月。……ていうか。……二人って、朝まで一緒だったんですよね?」  勇紀が玲央を見上げて苦笑いで、敬語で、そんなこと言う。 「だから何だよ?」 「……ほんの午前の数時間離れて、会った位でそんな嬉しそうに、玲央が笑うってさ、もう何回見ても、意味不明」  やれやれと、笑う勇紀。玲央は、ちら、と勇紀を見てる。 「あ、そうだ、優月、今日あとから来るんだって?」 「うん、行くね」 「待ってるからね」 「うん!」  頷くと、すぐに玲央が「優月、何で急いでるんだ?」と聞いてくる。 「あ、うん。食堂行く前に購買行ったら、ちょっと遅くなっちゃって……」 「ああ、そっか」 「玲央達は? お昼は?」  そう聞くと、玲央の隣で勇紀がにっこり笑った。 「オレらもう食べてきちゃった。ちょっとノートが欲しくてさ。色々打合せの記録とるやつ」 「もう食べたんだ、早いね」 「優月も早く食べないとだろ。行って来いよ」 「あ、うん、行くね。また夜ね。頑張って、曲作り」  手を振りかけて。  玲央の顔を見た瞬間、ふ、と。  ……なんか、どうしても、言いたくなって。 「あのね、玲央」 「ん?」 「あの……オレ、なんていうか……奏人のこと、好きみたい」 「――――……ん?」 「ん???」  玲央と勇紀に、一緒に首を傾げられる。 「奏人って……あの、奏人?」 「うん」  勇紀の質問に頷くと、なんだかさらに不思議そうな二人。 「何回か、話したけど。うん。好き」  そう言うと、少しして、玲央と勇紀がちょっと顔を見合わせてから、ふ、と笑い合って。 「そうなんだ」  勇紀がオレに笑って。玲央は「また会ったのか?」と聞いてくる。 「うん。ちょっと、話した」 「ていうか、優月、奏人のこと、呼び捨てで呼んでるの?」  勇紀が不思議そうに聞いてきたので、そうなの、と頷く。 「奏人くんって気持ち悪いから、次呼んだら蹴るって前に言われてたの。会ったら奏人が普通に今日も優月って呼んだから」 「……ふー-ん?」  何だか勇紀がにやにや笑いながら玲央に視線を向けた。 「……どうする、これ、優月と奏人が仲良しになっちゃったりしたら」 「――――……」  玲央は、ちょっと考えてから。 「なんかこの間から、もしかしていつかそんな感じになるんじゃないのかって……少し思ってる」  なんだかとってもゆっくりな口調でそう言う玲央に、はーそうなの?と笑う勇紀。 「まあ。優月だし。……あるかもって気がするけど」  そう言った玲央が、クスッと優しい感じで笑うので。  なんだかとっても好きだなと思って。オレも、ふふ、と笑ってしまう。 「玲央、勇紀、またね」  笑顔の二人に手を振って別れて、オレは、なんだかすごく気分が良いまま、食堂に向かった。

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