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第620話◇
電車に乗って、絵画教室に向かう。
小さい頃から、ずっと。
久先生も、蒼くんも大好きで、大きな家の端に絵を描くためだけに建ってる、離れの空間が大好きで。
今まで何回通ってきたんだろう。
週一回だから、月四回として。一年に、五十回位。
七歳から今十九歳だからで、十ニ年として…………六百回? 計算あってる? もう一回計算してみたけど、やっぱり六百回弱。
うわー……すごいなあと、しみじみ思ってしまう。
それだけ会ってれば、久先生はほんとのおじいちゃん、みたいだし。
蒼くんはほんとのお兄ちゃん、て感じに、なるよなあ。
家族みたいって思ってる自分に、なんだか納得がいってしまう。
久先生と蒼くんに、玲央とのこと、反対されなくて。
……ほんと良かった。
反対されたから即諦めるとかは無かったと思うけど。反対されてたら、ちょっと辛かったもんね。うん。
七歳で始めた時は、こんなに長い付き合いになるなんて、もちろん考えてもなかったけど。
毎週毎週積み重ねてる内に、いつのまにかこんなに。
大学生になって、自分でバイトができるようになってから、月謝は自分で払うって決めて、父さん達に言った。他の色々を結局出してもらってるから、頼ってることに変わりはなくて、自己満足みたいなものかもれしないんだけど。でも、絵は必要なものじゃなくて、自分がやりたいことだから。そこは、なんとなく区別しておこうと思って。
その話をした時、父さん、言ってたっけ。
優月は他にやりたいって言うことなかったんだし、それくらい出すよって。あとでその言葉を思い出すと、ちょっと可笑しくていつも笑ってしまう。
確かに、オレ、他になかったかも。どうしてもこれがやりたいとか、これが欲しいとか、そういう気持ち。
仲良かった子たちみたいに、ゲームをやりたいとかも無かったしなあ。
絵が描きたいっていうのと……。
……先生になりたいなっていう漠然としたのと……。
友達や家族、みんなと楽しく色々出来たらいいなあていう……感じ、かな。
……なんか、そう考えてると。
――――……どうしてもっていう強い気持ちって。
……どうしても、玲央と一緒に、居たいって。
オレ……生まれて初めてなのかも。こんなに強い想い。
駅について、歩き出す。電車で通い出したのは、大学生になってからだけど、毎週ともなると、通い慣れた感じ。
歩きながら、絵を描きに行けるのが幸せだなあと思って。
これが終わったら蒼くんとご飯を食べて、そたしらまた玲央のところに。今日は皆も居るところに、戻る。昼間は、恋のライバル……だったと思う、奏人と話して、好きだなあ、なんて思えて。
……なんか。今日は、良い日だなあ。
そんなことを思いながら、絵画教室の扉を開く。
「こんにちはー」
言うと、いつものように先生がこっちを見て微笑む。
笑って頭を下げていたら、「優月くんー、こんにちはー」と、仲良しの小学生の男の子が駆け寄ってきた。
「勝くん、こんにちは」
「一緒にかこー!」
「うん、良いよ」
手を掴まれて、引かれて、オレはクスクス笑って頷いた。
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