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第622話◇

 あの後、蒼くんは一旦家の方に帰って行って、オレは久先生にもらったアドバイスを考えながら、また続きを描くのに没頭。  色を重ねていくのが、すごく好き。  夢中で描いてて、ふっと気づいたら、蒼くんが来てて、オレの斜め後ろの椅子に座って、スマホを弄ってた。 「え」 「ああ、気付いた?」 「……いつから、来てた?」 「十分くらい前かな」 「ごめんね」  オレは苦笑しながら言って、なんだかちょっと固まってた体をうーん、と伸ばした。  「片付けるね」 「キリがいいとこまでできたか?」 「うん。できた」  立ち上がった蒼くんが、オレの絵を見下ろして。 「さっきよりもっと柔らかくなったな……いい感じ」 「先生に言われたとこも直したよ」  でも嬉しくて、ありがと、と言うと、蒼くんは、ん、と頷いてから久先生の方を向いた。 「父さん、今日は優月のことを玲央のとこに送って帰ってくるから遅くなるから」 「蒼が遅いのなんていつもだけど」 「優月遅くまでひっぱりまわして、とか言いそうだから、言っただけ」  はは、と笑って返してから、蒼くんがオレに視線を戻した。 「行くか?」 「うん。ちょっと待ってね」  道具を全部片づけて、絵を、端の方に寄せてから、あ、と思い出した。 「優月?」 「蒼くん、ごめんね、ちょっと待って」  椅子に置いてある鞄からスマホを出して、絵のところに戻って、写真を一枚撮った。 「保存しとくのか?」 「ううん。玲央に送るの」 「玲央に?」 「うん」  玲央に、「今日描いた絵だよ」とメッセージをつけて、写真を送信した。  送信完了を見てから、ポケットにスマホをしまってから、蒼くんのところに戻った。 「絵を送ってんのか?」 「うん。……って言っても今日初めて送ったんだけど」 「送ってほしいって?」 「んー……何の絵を描いたか見たいって言ってくれたから」 「ふうん」  少し笑って、蒼くんがオレを見る。 「優月に絡むこと、全部知りたいとかそんな感じ?」 「え。……それはよく分かんないけど……」  そんな風に言われると、なんかものすごく照れる。 「そう言われた訳じゃないからわかんないけど……絵、見たいとは言ってくれたから」 「……ま、いいや、後で聞くか」  蒼くんがそう言った時。ポケットのスマホが震えた。蒼くんも気づいて、見ていいよ、と笑うので、確認すると。 『可愛いって勇紀が言ってる。うまいって皆が』 『あ、今、夕飯食べてる』  その言葉と一緒に、夕飯の写真が送られてきた。 『優月らしい絵だな。優しい感じ』 『ありがとな、送ってくれて』  返事をする間もなく、続けざまに入ってきた。  ……なんだかもう、どんどん嬉しくなって。  何を返すよりも先に、大好き、と入れそうになって。  なんだかとってもニヤニヤしてる蒼くんの視線と。  あと、向こうの玲央の方も、皆が今、オレとのメッセージ画面を見てるのかも?と思ったら、それはちょっとやめとこう、と思って手が止まった。 「ありがと、玲央」  そう入れて。  それから。  前に玲央がオレに似てると言ってたハムスターのスタンプを呼び出して。  ふざけた感じで、投げキスをしてるのを見つけて、これくらいなら可愛いし、ちょっと好きって想ってるの分かってくれて、いいかなあと思って、ぴ、と送信。そしたら少ししてから。 『あとでしような?』  と入ってきた。  ん? 何を? と思った瞬間。   ……キスかなと、思い当たって、なんだか、キスしてって言ったことになってるのかなと思ったら恥ずかしくなって、かあっと熱くなった。 「……なあ、面白いけど…… オレ腹減ったから、百面相してないで行こうぜ?」  クックッと笑いながら、蒼くんがオレの背中をぽん、と押した。 「父さん、行ってくる」 「ああ、気を付けて。優月また来週――――……ああ、週末、希生のところで会うかな?」 「あ、はい。多分……玲央が連絡するって、言ってたので」 「じゃまたその時ね」 「ありがとうございました」    手を振ってる久先生にさよならを言って、蒼くんと外に出た。

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