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第624話◇
蒼くんが連れてきてくれたのは、またまた、完全個室の居酒屋。
「今日も個室だね?」
「……聞かれても良いなら良いけど?」
笑いながらそう言われて、ありがと、と苦笑。
……蒼くんが連れて来てくれるお店は、なんかほんとおしゃれだ。
「食べたいもの言えよ」
「ん……」
メニューを渡されて、しばらく見た後。
「だし巻きたまごと焼き鳥と……ここらへんのサラダかなあ。あとは……蒼くんここ来たことあるんだよね?」
「ああ」
「蒼くんのおすすめがいい」
「分かった。適当に頼む」
「うん。どれも美味しそう」
「飲み物は?」
「なんかお茶……ウーロン茶」
言いながらメニューを返す。少し見た後、蒼くんが店員を呼ぶボタンを押して、すぐに来た店員さんに注文を終える。蒼くんはメニューを片付けると、オレに視線を向けた。
「今週、希生さんとこ行くのか?」
「うん、多分」
「……速攻でバレて、速攻でじいちゃんち泊りとか……笑えるよな」
クッと笑う蒼くんの言い方に、苦笑いが浮かぶ。
「笑わないでよ」
「まあ、こないだオレ、希生さんと父さんと夕飯行っただろ」
「うん。電話くれた時でしょ? もうバレたのかって」
「そうそう。あん時話してた感じだと、希生さんがダメ出しするとは思わねえし。大丈夫だろうけどな」
「……ん」
そうだと良いけど。
ふふ、と頷く。
「それ、父さんも泊まんのかな?」
「うん、たぶん。そう言ってたよ」
「……じゃあオレも行こっかな。面白そうだし」
「面白くはないと思うんだけど……一緒に行く?」
「まあ考えとく。暇だったら覗きに行こうかな」
そう言うと、蒼くんは、オレをじっと見つめてくる。
「で、どうなんだ、玲央と。具体的に」
「具体的……?? ……えーと……仲良し、だよ?」
言うと、蒼くんは、こどもか、と笑う。
「仲良しって、例えば? どういう時仲良し? ……つか、仲良しって」
クスクス笑う蒼くんに、むむ、と思いながらも。蒼くんに笑われるのはいつもなのでスルーしつつ。
「えーと……一緒にご飯、作ったり……学校いつも一緒に行くし……結構、ずっと一緒に居る気がする」
「へえ」
蒼くんがクスクス笑ったところに、飲み物といくつか料理が運ばれてきた。
「玲央って、良い奴?」
「うん。優しい」
「はは。即答な?」
「だって、ずっと優しいんだよ。蒼くん、小皿置くね」
「ああ。……ふーん、ずっと優しい、ね」
「うん。優しいよ?」
サラダを小皿に取り分けて、蒼くんの方に置く。「サンキュ」と言った蒼くんに、「喧嘩しねえの?」と聞かれて、すぐに頷いた。
「なんだろなぁ……穏やか、なの、気持ちが。一緒に居ると」
「ドキドキじゃなくて?」
ニヤ、と笑われてそんな風に聞かれる。
「ぁ、心臓たまに、壊れるかなってくらいドキドキするんだけどね。でも、なんか、気持ちは穏やかな感じ」
「へえ……」
蒼くんは面白そうに目を細めると、またニヤニヤ笑う。
「心臓壊れる位ドキドキ、ねえ?」
「な。なに?」
「オレなったこと無いかも。どういう時にそーなんの?」
「どういう時って……」
「今ずっと一緒に居るんだろ? 慣れそうなもんだけど」
どういう時……。
どういう時だっけ?? んー、と、玲央との日々をちょっと思い起こしてみる。
ドキドキするのは……。
……キスする時? ……玲央の顔が近い時。……見つめられて、優しく笑われちゃうと、もう無理かも……。触れてくれる時とか……。
なんか玲央の瞳かな、ドキドキするのって。
……綺麗なんだもん、玲央の瞳。
「顔。ニヤつきすぎ。あと、赤い」
蒼くんが笑い出して、「え?」と蒼くんに視線を戻した。
「ニヤついてなんかないし」
「いーや、笑ってるし。何思い出してた?」
「……玲央の……顔かな……?」
また思い出すと、なんだか嬉しくなってしまう。
「ほら、また笑う。何なのお前、玲央思い出すとニヤける病気?」
「びょ、うきじゃないし……!」
何だよ、その病気っ。オレがムッとしてるのに、すごく楽しそうにクックッと笑いながら、蒼くんはオレを見つめる。
「面白いな、優月」
面白くありません。
オレは何も言わず、サラダをモシャモシャ食べ始めた。
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