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第626話◇
「もうさ、ほんとに笑いすぎだからね……」
また店員さんが持ってきてくれた料理を、笑ってる蒼くんを置いて一人黙々と食べていると、はー、おもしろ、と蒼くん。収まるのかと思いきや、まだ笑ってるし。もうもう。
どうしたら笑いやむんだろう、この人は。もうほんと、笑い上戸だ。
今日もお酒は飲んでないのに。
「ていうか、オレ、そんなに変なこと言った?」
「いや……変なことは言ってない、かな……」
言いながら、ノンアルのお酒もどきを口に含んでる。
「……玲央にもちょっと笑われたんだけどさ」
そう言ったら、蒼くんは、また目をキラキラさせて、オレを見つめてくる。
「何、玲央に何言ったわけ、優月」
「……練習したいって……」
「何を?」
「色々……? 上手になりたいからって言ったんだけど、なんか……笑われて終わったような……また今度なって、感じで……」
「……あー……なるほど……」
ああ、もう。また笑い出したし。
だれかー、蒼くんの笑いを止めてあげてー。
もうこれ、ずっと笑ってるんじゃないかな。もう全部食べちゃうからね。と思いながら、ずーっと食べてると。
「あ、だし巻きたまご、美味しい。蒼くんも食べる?」
「ん」
笑いながら頷くので、お皿に乗せてあげる。
「玲央が作ってくれる、だし巻きもすごくおいしいんだよー」
「……あいつ、料理できんの?」
すごく意外そうな顔で蒼くんがオレを見る。
「うん。なんかたくさん習い事してて、その中に料理もあったみたいで。なんか、料理人みたいだよ」
「すごい意外。料理なんかしたことないって、言いそう」
「蒼くんもできるよね」
「うちは、父さんだけだからしょうがなく、だよな。家政婦さん居るけど、住み込みじゃないし、ちよっと食べたいとかあったら、オレが作ってたから」
「うんうん。そだよね」
「……じゃあ一緒に料理してんの?」
「うん。教えてもらうことが多いかもだけど。一緒にしてるよ」
「へえ……」
蒼くんはなんだか楽しそうに微笑みながら、だし巻きを口にする。
「なんか優月のそのほのぼのエピソードに、あいつの見た目が合わねーんだけど」
「……んん。んー。……まあ、分かる、かな……」
蒼くんの言葉の意味を考えて、ふふ、と苦笑い。
玲央が料理しなそう、ていうのも、なんとなく、イメージは分かる。
「めちゃくちゃカッコいいもんね……うんうん」
玲央を思い浮かべながら、言ってると、蒼くんはオレをじっと見つめてから、苦笑。
「お前はずっとその感じで、玲央と居んの?」
「その感じって?」
「玲央、大好き、玲央カッコいい、玲央、優しい、玲央の作るだし巻き美味しい、料理もできてすごい、とにかくカッコいい……みたいな」
ニヤニヤ笑う蒼くんに、次々言われてる間に急に恥ずかしくなってきて、顔、一気に熱くなる。
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