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第630話◇

「まあ。のろけな位で良いけどな」  蒼くんは笑いながらオレを見つめる。 「ああ、あとさっきの質問だけど」 「うん?」 「……相手が慣れてないと嫌かってやつ」 「あ、うん……」  急にドキドキしながら、蒼くんの言葉を待つ。 「慣れてないのが嫌で面倒なら、お前を選ばないっつーの」 「――――……」 「これは玲央に聞かなくても分かる」  そう言って、蒼くんは自信満々な感じで笑う。 「だから勉強とかしないで、玲央に任せときゃ大丈夫。ていうかむしろ、玲央の知らないとこで、勉強されたくないんじゃねえのか?」 「……そうなのかな?」 「オレはそうだと思う」  ……なるほど。そっか……。  ふむふむ聞いているオレに、蒼くんが続ける。 「お前と付き合うのに、お前が慣れてるとか、想像しながら付き合う奴、一人も居ないから大丈夫。そこも分かって、玲央は付き合ってるから」  言ってる内に自分でおかしくなってきたみたいで、途中から笑いながら、蒼くんがそんなことを言う。  むー。蒼くんは、もう途中から、面白がってるけど。  ……言ってることは、確かに、と思ってしまう。  キス初めてって、最初の最初に伝えたし。……キスも出来なかったオレを誘ったんだから、慣れてるのを求めてはないか。……当たり前か。そっか。じゃあ、ほんとに、玲央が優しいから言ってるんじゃなくて、ほんとにそれでいいのかな。ふむふむ……。 「えっと……練習は……」 「したいなら、玲央としろよ? 勉強、はしない方がいいと思うぞ」  可笑しそうに笑いながら、蒼くんは言った。 「……うん。そうする」 「ん」  何だかもう蒼くんは、すごく楽しそう。 「……蒼くんてさ」 「ん?」 「昔からずーっとオレを、弟みたいに扱ってくれてたけどさ」 「うん?」 「……最初からだっけ? 最初の頃はさすがにあんまり覚えてなくて、気づいた時には、なんか、もうお兄ちゃん、て感じだったんだよね」 「まあ、小一だもんな。全部は覚えてないよな」 「蒼くんは覚えてる?」 「オレは高校生だったから。そう思うと、優月、大きくなったよな。会った頃、オレはもうある程度身長あったけど、お前はこんな小っちゃかったのに」  蒼くんがものすごい低いところで手を振って見せる。 「さすがにそんなにちっちゃくないよね」 「身長差、ものすごかったのにな? ほんと大きくなったな?」 「……もー、何それ。親戚のおじさんみたいだよ」  蒼くんの言い方に、クスクス笑ってしまう。 「オレ結構、小さい頃の優月も、覚えてるしな。学校押しかけてってたから、ほんと成長見守ってきた感あるな」 「確かに……何であんなに、オレの学校来てくれたの?」 「……弟の学校生活、見たかったから?? かな」 「……ほんと、お兄ちゃんはいつでもオレの友達にモテモテだったよね。皆、蒼くんを見ると、同じ反応なんだもん。面白かった」  ふ、と笑い合って、懐かしいね、とまた、しみじみ。 「そんな優月が、男のセフレって言った時は本気で驚いたけど……」 「……そう、だよね」  まあオレも自分でも驚いてた感じだから……蒼くんなんて、ほんとにほんとにびっくりさせただろうなと、思う。   「意外とうまくいってそうで、まあ、良かった」  ふ、と瞳を緩ませて、微笑む蒼くん。 「……ねね、蒼くんは? 好きな人、居ないの?」 「今は居ないな」 「居たことある?」 「あるよ。無いと思ってんの?」 「分かんない。蒼くんは、のめりこみそうな気がしないから」 「……モテすぎるからなぁ……オレ」 「うわー……」  ぽかんと、口を開けて、蒼くんを見てしまう。 「なんか、玲央と蒼くんて、すこーし、似てるとこあるよね……」 「んー……? ……別にそれ、そんなには嬉しくないな」  ぷ、と蒼くんが笑ってるので、オレも、そう? と笑ってしまう。  

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