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第632話◇
店を出て、蒼くんの車の助手席に乗り込む。
場所を伝えた玲央のマンションまで、ナビを入れて、蒼くんはシートベルトを着けた。
「三十分位だな」
「あ、うん。玲央に言っとくね」
スマホで玲央に入れると、蒼くんがゆっくり車を発進させた。
「あ。そうだ……蒼くんに話したかったこと忘れてた」
「ん?」
「……玲央とね、オレの実家に行ったの」
言うと、蒼くんが、え、という顔でオレを見た。
「蒼くん、前、前」
「ああ……つか、何だそれ、挨拶に行ったのか?」
視線を前に戻してから、蒼くんが聞いてくる。
「いやちがくって……あのね、樹里と一樹が喧嘩してて、珍しく長くてね。玲央が曲作ってたし、ちょっと実家に行ってくるって言ったら、玲央も、曲作りに詰まってたから一緒に行くって」
「へえ??」
「父さんは居なかったんだけど……一緒に、二人が仲直りするとこ見守って、それで……ちょっと話して帰ってきたの」
「ああ。……なんだ。もう実家に挨拶しに行ったのかと思って、玲央すげーなって思った」
楽しそうに、笑ってる蒼くん。
……何て言ったら分かってくれるかな。えーと……。
「あのね、蒼くん……特にオレ達、それっぽいことは、何も挨拶みたいなことは、してないんだけど……」
「……だけど? ……ああ、バレたのか?」
「――――……」
今度は一瞬だけチラ見され、そんな風にズバリな一言。
「……完全に……とかじゃないと、思うんだけど……」
「何言われた?」
「……今度は父さんが居る時においで、とか……お父さんと私は、子供たちの味方だから……とか、母さんが言ってた」
しばらく、しーんと、無言の蒼くん。
「あー……バレてんな、ほぼ」
「……う、ん」
「普通の友達に、父さんが居る時においでなんて、言わねえよ」
「……だよ、ね。うん」
「長居してたのか?」
「いや……そんなにいなかったし、特にばれそうなこととか言ってないんだけど」
「……まあ、分かるんじゃねえの。母親って」
クックッと、笑いながら、蒼くんが、「優月が分かりやすいしな」と言う。
「……あ。あと、ね」
「ん?」
「……玲央の家に帰ってから、一樹から電話が来たんだけどさ」
「うん?」
ちょっと言うのを躊躇うけど。
「樹にさ、ゆづ兄は、玲央くんが好きなの?って聞かれて、何だろうって思ったらさ……樹里が、BLだって騒いでるって一樹が言うの」
「――――……っ」
クッと笑い出した蒼くんが、なんかムせて、ゲホゲホ言ってるし。
「何、だそれ。お前らほんと、実家で何したの?」
「何したのって……何もしてないよ? ……普通に話してただけ。あ、玲央と一緒に住みたいとは言ったけど……んー。もう、分かんないんだけど……一樹はあんまり意味が分かってなくてさ、でも、樹里は、ゆづ兄可愛いもんねっとか言っちゃっててさぁ……」
「あー、笑える……」
そう言いながら、蒼くんはもう、ずーっと笑ってる。
「……もう、また今度行くから、とりあえず、仲良しって思っててねって、電話切った」
「仲良しねぇ……」
「だって、BLとか言われて、なんて答えれば……」
「まあ間違ってないから……言っとけば、カッコいい彼氏でしょ、って」
「…………まだ、ちょっと、それは無理かも……」
うーん、と考えながら、ちょっと考えて。
「だって小学生なのにー……BLとか、なんで知ってんのかな?」
「ドラマとかも普通にやってるしなぁ? 目に入るのかもな」
にしても、ほんとにお前、面白いな、と蒼くんがしみじみ言いながら、まだ笑ってる……。
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