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第633話◇

 やっとのことで蒼くんの笑いも収まった。  収まったところで、学校の友達に、オレの相手が男だと伝えたことも話した。少し驚いてたけど、皆の様子も話したら、まあ良かったなと笑ってくれた。 「まだ玲央だとは、言ってないのか? 男ってだけ?」 「うん。……先に希生さんのところ行って……玲央のお家とかに迷惑とか掛からないなら……かな? ……まだ分かんないけど」 「そっか」 「……んー、でもね、なんか……」 「ん?」  言うの躊躇うけど。……だってまた笑いそうだから。 「……でもね」 「ん? 何?」 「……名前は、そのうち言える時にって、皆には言ったんだけどさ」 「ああ」 「……もう分かってる人達が何人か……」  そう言うと、蒼くんは少し黙って、考えてから。 「……玲央と一緒のとこ、友達に見られてんのか?」 「うん。……玲央ね、学校で会うと、側に来てくれて……なんだろ。なんか……そういうのでバレてるのかな」 「……キスしたりしてくる訳じゃないよな?」 「無いよ、それは無い。普通に話して離れるだけなんだけど……なんか、周りがちょっとシーン、てするんだよね。玲央、目立つしさ。何か……皆、オレと玲央がしゃべってると、ちょっと静かになる……?? 頭撫でたりするからかなあ……??」 「あー……」  蒼くんがクスクス笑いながら、頷いてる。 「なんか状況は分かった」 「え、分かったの?」 「バレるっていうのも、なんか分かった」 「……蒼くん、天才だよねー……」  言うと、蒼くんは、なんだか苦笑い。 「これに関しては、オレが天才なんじゃなくて……」  何か言いかけたけど、蒼くんはそこで、ふ、と笑って、言うのをやめた。 「なに?」 「……いや、なんつーか…… 周りも、絶対分かってるのに、優月が言わないと、言えないだろうし、大変だなーと思って」  そう言われると、なんか、こないだ食堂で皆が、何でもないって言って笑ってたのを、ちょっと思い出す。 「……蒼くんて、大学に居ないのに、見てたみたいなこと、言うねー」  不思議。  しみじみ言ったら、蒼くんは、また笑い出してしまって、「お前は、もう、ほんとに……」と、笑いながら、言ってる。  ……にしても、ほんとよく笑うな、蒼くん。と、思った時、目の前に駅が見えた。「今、駅の前通ったよ」と、玲央のスマホに連絡を入れたら、すぐ「了解。エントランスの近くに、客用の駐車場があるから」と入ってきた。  なんだかすごく笑われた一日だった気がするけど。  ……まあ、でも報告したいことは、全部話したかなあ……。 「まあ、お前の周りがほのぼのしてるのは、いいことだから、良いけど」  蒼くんのまとめみたいな一言に、うん、まあ……と頷きながら。 「面白いから、やっぱオレ、週末行くわ。希生さんち。オレの予定はどうにかずらす」  何だかすごく乗り気の蒼くんに。 「……面白いからって言われると、なんか……」  やっぱり、少しは緊張するから、蒼くん来てくれるのは、嬉しいけど……。  面白いって……面白い…………。ううーん?? 「優月、あの信号、右でいいのか?」 「あ、うん、右曲がって少し先の、なんかものすごくでっかいマンション」 「分かった」 「エントランスの近くにお客さん用の駐車場があるって」 「ん」  信号を曲がって少し走ったところで「ああ、あれか」と蒼くんが言った。入り口に入った少し先で、玲央が立ってて――――……というか、甲斐と勇紀と颯也も一緒に立ってた。  皆でお出迎え? と、ちよっとおかしくなってしまう。 「なんでフルメンバーで、出迎えてんの、あいつら」  蒼くんも笑っちゃったみたいで、可笑しそうにそう言う。「そうだね」と笑って答えながら、オレの視線は、ついつい玲央に。  窓を開けて、目が合うと、玲央が、ふ、と笑んでくれた。  あ。なんか。  ……大好きすぎるんだけど、どうしよう。     

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