632 / 856
第633話◇
やっとのことで蒼くんの笑いも収まった。
収まったところで、学校の友達に、オレの相手が男だと伝えたことも話した。少し驚いてたけど、皆の様子も話したら、まあ良かったなと笑ってくれた。
「まだ玲央だとは、言ってないのか? 男ってだけ?」
「うん。……先に希生さんのところ行って……玲央のお家とかに迷惑とか掛からないなら……かな? ……まだ分かんないけど」
「そっか」
「……んー、でもね、なんか……」
「ん?」
言うの躊躇うけど。……だってまた笑いそうだから。
「……でもね」
「ん? 何?」
「……名前は、そのうち言える時にって、皆には言ったんだけどさ」
「ああ」
「……もう分かってる人達が何人か……」
そう言うと、蒼くんは少し黙って、考えてから。
「……玲央と一緒のとこ、友達に見られてんのか?」
「うん。……玲央ね、学校で会うと、側に来てくれて……なんだろ。なんか……そういうのでバレてるのかな」
「……キスしたりしてくる訳じゃないよな?」
「無いよ、それは無い。普通に話して離れるだけなんだけど……なんか、周りがちょっとシーン、てするんだよね。玲央、目立つしさ。何か……皆、オレと玲央がしゃべってると、ちょっと静かになる……?? 頭撫でたりするからかなあ……??」
「あー……」
蒼くんがクスクス笑いながら、頷いてる。
「なんか状況は分かった」
「え、分かったの?」
「バレるっていうのも、なんか分かった」
「……蒼くん、天才だよねー……」
言うと、蒼くんは、なんだか苦笑い。
「これに関しては、オレが天才なんじゃなくて……」
何か言いかけたけど、蒼くんはそこで、ふ、と笑って、言うのをやめた。
「なに?」
「……いや、なんつーか…… 周りも、絶対分かってるのに、優月が言わないと、言えないだろうし、大変だなーと思って」
そう言われると、なんか、こないだ食堂で皆が、何でもないって言って笑ってたのを、ちょっと思い出す。
「……蒼くんて、大学に居ないのに、見てたみたいなこと、言うねー」
不思議。
しみじみ言ったら、蒼くんは、また笑い出してしまって、「お前は、もう、ほんとに……」と、笑いながら、言ってる。
……にしても、ほんとよく笑うな、蒼くん。と、思った時、目の前に駅が見えた。「今、駅の前通ったよ」と、玲央のスマホに連絡を入れたら、すぐ「了解。エントランスの近くに、客用の駐車場があるから」と入ってきた。
なんだかすごく笑われた一日だった気がするけど。
……まあ、でも報告したいことは、全部話したかなあ……。
「まあ、お前の周りがほのぼのしてるのは、いいことだから、良いけど」
蒼くんのまとめみたいな一言に、うん、まあ……と頷きながら。
「面白いから、やっぱオレ、週末行くわ。希生さんち。オレの予定はどうにかずらす」
何だかすごく乗り気の蒼くんに。
「……面白いからって言われると、なんか……」
やっぱり、少しは緊張するから、蒼くん来てくれるのは、嬉しいけど……。
面白いって……面白い…………。ううーん??
「優月、あの信号、右でいいのか?」
「あ、うん、右曲がって少し先の、なんかものすごくでっかいマンション」
「分かった」
「エントランスの近くにお客さん用の駐車場があるって」
「ん」
信号を曲がって少し走ったところで「ああ、あれか」と蒼くんが言った。入り口に入った少し先で、玲央が立ってて――――……というか、甲斐と勇紀と颯也も一緒に立ってた。
皆でお出迎え? と、ちよっとおかしくなってしまう。
「なんでフルメンバーで、出迎えてんの、あいつら」
蒼くんも笑っちゃったみたいで、可笑しそうにそう言う。「そうだね」と笑って答えながら、オレの視線は、ついつい玲央に。
窓を開けて、目が合うと、玲央が、ふ、と笑んでくれた。
あ。なんか。
……大好きすぎるんだけど、どうしよう。
ともだちにシェアしよう!