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第636話◇
「……れお」
ぎゅ、と包まれるみたいに抱き締められて、その背中に手を回す。
「楽しかった?」
「ん? あ、うん。玲央とのことも話したよ……実家いったこととか」
「そっか」
少し離されて、見つめ合う。玲央の手が頬に触れて、いつものように、すりすりと撫でられる。
「さっき車の窓が開いて、優月の顔見たら……」
「?」
「なんか嬉しくなった」
「――――……」
そんな風に言って優しく笑む玲央に、なんか胸の奥が、きゅっと痛い……というのか。締め付けられるみたいな。
さっき、窓を開けた時の玲央の笑った顔を思い出すから、余計に。
「もー……玲央……」
「ん?」
「……もう大変」
「……え? 大変?」
きょとんとされて。
……なんかその顔が可愛く見えて。
「……なんか、嬉しいし。……ドキドキ、して、大変……」
そう言うと、玲央は、ああ、と笑い出して。
「そういう意味か」
と言いながら、オレをもう一度抱き締めた。
「かわいーな……」
ちゅ、と、頭のてっぺん辺りの髪の毛にキスしながら優しく言う玲央に、ますます大変なんだけど、と思いながら。
「……シャワー浴びたら、あの部屋戻っといで」
「うん」
「眠かったら先に寝てもいいけど」
「ん」
「三人寝かせたら、オレは優月と寝るから」
「……うん」
ふふ、と笑いながら頷く。
「……まあ……抱くのは我慢するつもりだけど」
「――――……」
「優月の声聞こえたら困るし」
「…………」
…………オレ、声、そんなにうるさいんだろうか……。
自分では、我慢、してるつもり、なんだけど……。
……ああでも、そういえば、よく分かんなくなってる時も多々あるし……。
玲央がよしよししてくれてる中、してる時の自分を思い出しながら、どんどん恥ずかしくなって、顔が熱くなってくる。
…………そんなに、声、気にされるほど、出してたっけ……。
うー。恥ずかし……。
「……優月?」
返事が出来てないオレを不思議に思ったのか、玲央がオレを見下ろして、ちょっと驚いた顔をした。
「何。そんな赤いの?」
言いながら、クスクス笑ってる。
「……オレ、そんなに、声……出す??」
「――――……ああ、それか……」
ふ、と笑んで、まっすぐ見つめられたまま。
「大きいとかじゃなくて、すげえ可愛いから。絶対聞かせたくない」
「――――……っ」
もっと恥ずかしい答えが返ってきて、もっと、顔が……一瞬で熱くなる。
「はは。……耳も赤い」
そんなこと言われて、玲央の手が耳に触れるけど、やたら冷たく感じるのは、オレの耳がめちゃくちゃ熱いからだと知る。
「……かわいーなぁ、ほんと」
何を思ったのか、玲央が、かぷ、と耳に噛みついた。
「ひゃ……ッ」
「……ほら。かわいい」
「……っっだ、って……っ」
そのまま、ちゅっと頬にキスされて固まってると、クスクス笑う玲央に抱き締められた。
「しょーがない…………戻るか」
「…………しょうがないの?」
「……ん。優月に触ってたいけど、やらなきゃだから、しょーがない」
可笑しそうに笑って、玲央が言う。
「これ、皆のとこ持ってくの手伝って」
撫でられて、ゆっくり離されてそう言われる。うん、と頷いて。
玲央と一緒に皆の部屋着を抱えて歩くだけなのに。
……なんかすごく楽しかった。
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