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第638話◇

 お湯を火にかけて、人数分のマグカップを並べると、玲央がオレの隣に並んだ。じっと見つめられて、自然と、微笑んでしまう。 「玲央、抜けてて大丈夫なの?」 「十分位抜けたって、変わんない」 「そうなんだ」 「もう行って、って言われたし」  確かに……。呆れモードだったけど、楽しそうでもあった、三人の顔を思い出すと、ちょっと可笑しい。  玲央の手が、オレの頬にかかる。 「……玲央ってさ」 「ん?」  返事をしながら、玲央が、クスクス笑い出す。オレの頬に触れてた手を、肩に触れさせて、ぽんぽんと軽く叩く。  まだ何も言ってないのに、何で笑うんだろうって、思ったら。 「優月が、玲央ってさ、ていう時って、大体なんか面白いこと言うから」 「……そうだっけ?」 「そんなイメージ……玲央ってさ王子様みたい、とかも言ったよな?」 「あー……うん、言ったかも」  そういえば、と思い出すと、オレも笑ってしまう。 「だって、そう思うんだもん……」 「まあいいけど。……で? 今は? 玲央ってさの続きは?」 「あ、うん……玲央ってさ、オレのほっぺによく触るでしょ?」 「……これ?」  肩から手を外して、オレの頬に、また手を掛けて、すりすりと撫でてくる。 「うん、それ……」  触れ方が優しくて、自然と笑みが零れてしまう。 「それ、すっごく、好き……」 「――――……」  ぴた、と玲央が止まる。 「――――……これ? 好き?」  今度は、玲央の両手が頬に掛かって、包まれるみたいに触れられる。 「うん」  そのままめちゃくちゃ近くから見つめられて、ただ瞬きしながら玲央を見つめ返す。 「……ちょっと、恥ずかしい、んだけどね」 「――――……」 「でも、好き……優しくて」 「――――……」  ぐい、と引かれて、キスされる。  こんな時だし、軽いキスかなって思ってたのだけれど。  重なってすぐに、頬に触れてた手は、片手は後頭部、片手は顎を掴んで上向かされて。いきなり深いキスに変わった。 「……んっ……ん、ん……む……?」  何か言おうとして開けた口に玲央の舌。 「ん、ぅ……っ……」  目を開けてたけど、耐えられなくなって、ぎゅ、と閉じる。  皆が来たらどうしようーと思うのだけれど。  ……好きで。……離れるの、無理。 「――――……っ……」  ぎゅ、と玲央の背中につかまって、抱き付く。  しばらく、玲央の思うようにキスされて、力、入らなくなった頃。  ぴー、と静かな、お湯が沸いた音が鳴り始めた。 「――――……ふ ……」  ゆっくり、唇が離れた。  頬に触れられて、そっと、瞳を開くと、視界が涙で滲んでる。  玲央の親指が、涙をふき取る。  いつも、この流れ。  いつも泣いちゃうけど。  ……いつも優しいこの指が、大好き過ぎて。 「……すっごく好き、とか言われると…………」  玲央がオレを見下ろして、クスクス笑う。 「可愛くて、我慢、無理だな……」  ちゅ、と最後にキスして、玲央はオレを離した。  ぼー--、としてるオレから離れてコンロの火を止めてる玲央を見ながら、カウンターに寄りかかる。

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