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第640話◇

 なんだか嬉しいなぁと思いながらお湯を注いでると、玲央がオレの頭をよしよし撫でてから、んーと唸ってる。 「……?」  なんだろ、と見上げると、玲央は苦笑い。 「逆にさ」 「うん……?」 「優月にとって、オレでいいのって思うけど?」 「えっ。何で? どして??」  びっくりして、玲央を見つめてしまう。 「……優月が綺麗だから、かな」 「――――……」  えーと……。  なんだか、ほんとにぽかーん、としてしまう。  考えても、綺麗っていう言葉と自分がどうしても結びつかなくて、はて? と首をかしげてしまう。 「…………」  オレの顔を見ていた玲央は、ぷっと吹き出して、笑いながらまたオレの頬にキスして、じっと見降ろしてくる。 「……玲央?」 「優月のこと、中も外も、綺麗だと思ってるから。オレでいいのかなって思うけど……」  言いながら、玲央はオレの肩に手を回して、自分に少し引き寄せた。  オレは、お湯をカウンターの上に置いて、玲央を見上げた。 「……離す気ないから。良いって思うことにしてるかな」 「――――……」  言われたことを少しの間、考えて。  そしたら何だか、ふふ、と微笑んでしまった。 「綺麗とかはよく分かんないけど、結局、離れないって言ってくれた……てことで、いい?」  そう言って、すぐ近くの玲央を見つめると。 「……そうだよ」  ふっと優しく瞳が細められる。  近づいてくる、唇を見つめながら、追えなくなったところで、目を閉じた。  柔らかく、重なってくる唇。   優しくて。  すごく、好きな、キス。 「……あれだよな。オレ達、今まで全然違う感じで生きてたから……」 「うん……」 「色々考えると、オレでいいのって思うのかもな」 「ん……」  小さく頷きながら、確かにそうかも……と、思っていたら。  玲央の手がオレの両頬にかかって、まっすぐ上げさせられた。 「……オレのこと、好き?」 「うん」  即答すると、玲央は優しく微笑んで。 「オレもお前が好き。……つか可愛くてしょうがない」 「…………」  言ってから、玲央はクスクス笑う。 「……『このまま毎日好きでいよう』って歌詞の歌があるんだよ」 「ん……」 「そしたらそれが永遠になる、って」 「うん。そう、だね。誰が書いたの? 素敵だね」 「……」  あれれ。黙った。 「え。玲央が書いたの?」 「……まあ、それはおいといて」 「え、いつ書いたの?」 「…………中学? 高校?」 「えっそんな頃に、そんな歌詞、書いてたの??」  興味津々で、なんだか困ったみたいな顔してる玲央を見上げて聞いてると。  すぽっと、腕の中に抱き締められてしまった。 「んん、玲央、その歌詞全部見たい、見せて」 「やだ」  クスクス笑って、玲央がオレをぎゅむむと抱き締める。 「もー、じゃあ歌聞かせてよー」 「無理。はずい」 「えええ……」  全然腕から出してもらえず、でもなんだか、クスクス笑ってる感じがとっても幸せな気がして、その内、その背に腕を回して、ぎゅ、と抱きついた。 「……毎日このまま、居ようねって、こと?」 「――――……そ。」    頷いて笑う玲央が、オレの頭を撫でてる。 「余計なこと考えないで、好きだなと思いながら、一緒に居れば良いと……思わねえ?」 「うん。……すごく、思う」   「じゃあそれで。オレ、マジで、離れる気なんか無いし」  優しい笑いを含んだ玲央の声に、きゅ、と胸の奥が弾むみたい。  

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