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第641話◇

 なんだかとっても思いつきで発してしまったセリフに、玲央が返してくれた言葉のおかげで、とってもとっても幸せ気分のオレ。  トレイにコーヒーをのせて、皆の部屋に運ぶ。  玲央がドアを開けてくれて、中に入ると、皆が振り返った。 「おそーい……」 「まあどうせイチャイチャしてたんだろうけど」    勇紀と甲斐に言われて、イチャイチャなんて……と言いながら、ローテーブルの上にコーヒーを置いた。 「してなかった?」 「う……う、ん……」  してたかも……ドキドキしながら、颯也の視線にうろたえていると。 「キスとか、してない?」 「して……」  もうそこでダメだった。  かあっと顔に血が上って、何も答えられなくなると。  ぐい、と玲央に腕を引かれた。 「いじめんな」  よしよしされて、余計に赤くなってるオレを見て、皆、はあ? と眉を寄せた。……でも、面白そうに。 「いじめてねーし」 「むしろ今もっと真っ赤だっつの」 「玲央が一番、そうさせてんじゃん」  颯也と甲斐と勇紀が立て続けにそう言うと、玲央は、オレを見下ろして、真っ赤になってると思う、頬を手で挟んだ。 「オレがして赤くなんのは、いーんだよ。な?」  よくわからないことを言ってる玲央。キラキラした瞳でまっすぐに見つめられると、なんだかなあもぅほんとに対処しきれないよう、と思いながらも、うん、と頷いてしまう。 「優月、嫌な時は嫌って言うんだよ?」  と、勇紀がオレに向かってそんな風に言う。 「嫌じゃないもんな?」  うん。  頷くと、よしよし、と撫でられる。 「なんかもう、猫可愛がりってこのことか、みたいな感じだよね……」 「玲央でこんなの見る日が来るとはな」  勇紀と甲斐が言うと、颯也は息をつきつつ、「もう大分、今更って感じ……優月コーヒー、貰うなー」とマグカップを一つ取った。 「うん、どうぞ」  頷くと、勇紀と甲斐も、頂きまーすと、コーヒーを飲み始める。 「皆、まだしばらく頑張るの?」 「ん、もう少しな。優月、コーヒー飲んだら、眠い時に寝ていいから」 「うん。分かった」  ――――……とは言ったものの。  コーヒーを飲み終えても、なんとなく、皆があんまり真剣すぎるので、声を掛けれない。  おやすみ、というのもちょっとはばかられる位。  音とか歌詞とか、あれこれ言いながら、曲を作ってくんだなあ……。  皆、いつもは結構ふざけてたりしてて、冗談言って、玲央をからかったりもよくしてて。顔、すごく整った人たちではあるけど、同じ男同士だし、玲央以外は別に、容姿でときめくとかもない、のだけど。  ……今こうして、見てる皆は、ほんと全員、ほんとにカッコいい。  キラキラ光ってるステージで歌ってるライブもカッコよかったけど。  真剣に音を紡いでく皆は……素敵だなあ。  ここに居させてもらえて、ほんと、すごい、幸せ。  曲は玲央が作ってたのがほぼそのままだけど、重ねてく皆の音。一度弾いて、止まって、少し話して弾きなおす。色んな作り方があるんだろうけど。ここで聴いてる間にも、どんどん、良くなってく気がして。  なんかちょっと眠くなってきたけど。  うとうとしながらも、ずっと、聴いていたくて。  Ankh……素敵だなあ……なんて、思いながら。    すっごく幸せな時間だった。

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