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第644話◆番外編【優月・お誕生日】2

【side*優月】  誕生日になった瞬間に、玲央が歌ってくれて、もうほんとに、最高で。  キスされたまま寝ちゃって、朝起きたら、まだ抱き締められたままだった。  めちゃくちゃ幸せなまま、大学に行ったら、SNSで誕生日が出てるから、会う友達皆におめでとうって言われて、なんだかずっと嬉しいまま過ごした。  授業が終わって、玲央とバンドの皆と待ち合わせた。今日は皆がお祝いしてくれるって言ってくれてるので、一緒に玲央のマンションに向かって歩き始める。 「今日ね、皆におめでとうって言ってもらえてね。すごい嬉しかった」  並んで歩きながら玲央に言うと、良かったなと、優しく微笑んでくれる。うん、と頷いてると、後ろから勇紀が「今からオレらもいっぱいお祝いしてあげるからね」と言ってくれるので、ありがと、と笑う。  玲央のマンションに帰って少しすると、玲央がオレに言った。 「な、優月。勇紀と買い物に行ってきて?」  「買い物?」 「ん。アルコールと飲み物ちょっと足りないかも」 「あ、うん、分かったー」 「ちょっとは飾り付けたりもしときたいからさ」  ふ、と笑う玲央に、なんだか嬉しくなって、見上げる。 「飾り付けとか、してくれるの?」 「ん、ちょっとはな」  残るのが、玲央と甲斐と颯也なので、なんだかとっても意外な気がするけど、どんな飾りつけしてくれるんだろうと逆にすごく楽しみだったりもしてくる。「じゃいこっか」と勇紀に誘われて、頷いた。 「玲央、配達してくれるとこがいいよね?」  勇紀の言葉に、「だな。よろしく」と玲央が言う。 「うん。じゃいこ、優月。じゃあ、飾り付け、頑張ってなー」  勇紀が皆に言うと、「おー」「いってらー」と颯也と甲斐。 「気を付けてな?」 「うん。行ってきます」  玄関で玲央が言うのに答えると、「過保護か……」と勇紀が横で笑ってる。 「大事な優月、お預かりしまーす」  なんて言いながらオレをひっぱる勇紀について歩きながら、玲央にバイバイと手を振って、ドアを出た。 「いつもあんな感じ?」 「あんな感じって?」 「離れたくないなーって感じ。……買い物ちょっと行くだけなのにさ」  クスクス笑う勇紀に、んー、どうだろ、と言いながら。 「気を付けて、とかはよく言ってくれるかも……」 「めちゃくちゃ大事にしてるもんな」  勇紀がとっても楽しそう。 「優しいからね、玲央」 「……否定はしないけど……優月には特になー?」  クスクス笑いながら、ふと、さっきも思ったこと。 「あの三人で誕生日の飾り付けって……何してくれるんだろう??」 「んん……んー……まあきっと、何かしら……」 「輪っか、つなげたりしてくれるのかなぁ……?」 「折り紙の?」 「……なんか、想像がつかない」  なんだか考えてたらおかしくなってきちゃって、ぷぷ、と笑ってると、勇紀も吹き出す。 「まあ期待してよ。とりあえず駅まで行って、配達注文して帰ってこよ」 「うん。アルコールと飲み物って言ってたよね」 「これでやっと、優月と飲めるなー?」 「うんうん、嬉しいー」 「なー?」  二人でウキウキ話しながら、駅までの坂を下った。 ◇ ◇ ◇ ◇  勇紀と色々選んで注文して、配達を頼んだ。  すぐ行ってくれるみたいで、多分オレ達よりも早く飲み物がついていそうな感じ。 「早く帰ろ、優月」  勇紀に急かされて、店を出て、マンションに向かって少しだけ早歩き。 「今日って、皆泊っていくの?」 「いや。今日は帰るかなー」 「そうなんだ……」  頷いてると、勇紀がクスッと笑って、オレをちょっと覗き込んだ。 「多分玲央は、誕生日の最後は、優月とふたりが良いと思うし」 「え」 「きっとそうだと思うけどな?」 「……そ、かな」 「絶対そう。邪魔だからそろそろ帰れって言われそう」  そんなことは言わないと思うけど、と笑ってしまう。  オレがお酒を飲んだらどうなるのかなーなんて話を勇紀としながら坂を上っていると、マンションが見えてきた。 「あ、そうだ……ねね、勇紀」 「ん?」 「ちょっとだけ、|惚気て《のろけて》いい??」 「……」 「あ、嫌ならいいんだけど」  珍しく少し黙った勇紀に、惚気られるのは嫌かなと思った瞬間。ぷ、と吹き出された。 「勇紀??」 「……ていうか、優月と玲央、いつも見てると、ずーーっといちゃいちゃしてるし、もう、そこで惚気てる感じだと思うんだけど……」 「……え、そんな、かな……??」 「そうだよ。いいよ、いつも通りいっぱい惚気て?」  クスクス笑って言われると、かなり恥ずかしいのだけど。 「……あのね、今日になった時、ね」 「うん」 「玲央が、歌ってくれてさ」 「ん」 「……ここに居てくれて良かった、みたいな歌……初めて聞いたんだけど」  言うと、ああ、と勇紀が笑う。 「昔作った曲だね。アルバムには入ってないから、優月、聞いたことないかも」 「うん、無かった。なんか、オレがね、言ったんだけど」 「何を?」 「誕生日になった瞬間、何かしたいって。何したらいいかなって。三十秒くらいで二十四時って時に、何しよう、とか突然思って言ってたら、じゃあ聞いててって言って、歌ってくれてさ」 「へー……」 「……泣いちゃった」  言うと、面白そうに相槌を打っていた勇紀は、ますます可笑しそうに笑った。  マンションのエントランスで鍵を開けて、エレベーターに乗り込む。 「玲央、びっくりしてたでしょ」 「……してた」  苦笑いで返してから。 「でも、なんか……玲央がオレだけに歌ってくれるとか、もう、嬉しすぎて」 「そかそか、良かったね~……つか、よく歌ったな」 「……ん?」 「玲央ってさ、カラオケとかライブで歌うとかは平気だけど、そういう感じで誰かのために歌うとかってさ、恥ずかしいというか、なんかこう、なんか引くっていうか、絶対やだ、とかな感じだから」 「……言ってた、それ」 「でしょ? だから、かなり、レアだよ」  エレベーターを降りて、玲央の部屋に向かって歩きながら、ふ、と勇紀が笑って、オレを見つめる。 「泣いちゃうよね、優月は」 「……うん。もう嬉しすぎて。今も泣けそう……」 「いやいや、泣かないで。優月が目赤くして帰ったら、玲央に怒られる」  冗談ぽく言う勇紀に、ふふ、と笑ってしまっていると、ぴんぽーん、と勇紀がチャイムを鳴らした。 (2023/3/5) ◇ ◇ ◇ ◇ 終わらなかったー(;'∀') まだ続いちゃいます。

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