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第645話◆番外編【優月・お誕生日】3
勇紀がピンポンを押してくれたのだけれど。
「あ、オレ鍵持ってる。開けるよ」
「うん、まあ。いいのいいの、玲央、迎えに来たいだろうし」
そんな会話をしてると、玄関が開いて、玲央が迎え入れてくれた。
「ただいま、玲央」
「お帰り。勇紀もサンキュ」
「んー」
先に上がって、勇紀が洗面台で手を洗うと、リビングに入っていった。
「優月、手洗ったら、ちょっと来て」
「うん?」
言われた通り手を洗って玲央についていくと、リビングじゃないクローゼットがある部屋に入った。
「主役だからちょっと着飾ろ」
「??」
着てたトレーナーを脱がされて、シャツを羽織らされて、ボタンを留められる。それから、カジュアルな感じのジャケットと、蝶ネクタイ。
「え、こんなの着るの?」
「うん。写真とかも撮りたいし。着て。オレもこっち着るから」
オレに服を着せてから、玲央もちょっとおしゃれなシャツに着替える。
「ほんとにお誕生日パーティみたいだね」
「? 何だと思ってた?」
「皆で一緒にご飯たべて、おめでとって言ってもらえるのかなーとは思ってたけど」
「ちゃんとパーティだよ」
「なんかドキドキする」
いつもオシャレなのだけど、ちゃんとした格好すると、ほんとに一気に尊い感じになってしまう、玲央にも、ドキドキする。
「カッコいい、玲央」
しみじみそう言ってしまうと、玲央はふとオレを見つめて、クスッと笑う。
「……優月は、可愛い」
ぷに、と頬をつままれて、そのまま引き寄せられて、キスされる。
「……ン」
声が少し漏れたところで、あ、と玲央がオレから離れた。
「ダメだった、行かないと。待ってるから」
「あ、うん」
オレが頷くと、玲央は、じっとオレを見つめて。
「優月」
「ん?」
「優月が好きだよ」
「……うん」
嬉しくなって、ふふ、と笑ってしまいながら頷くと。
「今だけじゃなくて、ずっと、優月が優月として生きてきた全部が好きだから」
「うん」
「でもって、これから先はずっと一緒に居るから。優月がずっと関わってきた人たちも大事だと思うし、オレも関わってくと思う」
「……うん」
好きってことと、ずっと居るってことは分かった。
関わってきた人たち? ……家族ってことかな? はっきりとは良く分からないけど、でもなんだか、すごく大事にしてくれようとしてるんだなってことは分かって、嬉しくて頷いた。
「誕生日おめでと」
ちゅ、と頬にキスされる。もう何回目だろう、言われるの、と微笑んでしまう。
「ありがと……」
「ん」
「玲央、大好き」
お返し、と頬にキスすると、すぽ、と抱き締められて、よしよし撫でられてから離された。
「行こ」
手を引かれて、うん、と頷いて、リビングに向かう。
「先オレ入るぞー。もういいか?」
「うん、玲央入って。そしたら優月は十秒待って」
玲央の声に応える勇紀の声。
「オレ先に入るから、十秒経ったら、入ってきて?」
「うん」
「……泣くなよ?」
クスッと笑いながら玲央がオレの頬にすり、と触れる。
玲央が先に中に入って行く。なんか中、暗いし。
もしかして、クラッカーとか鳴らしてくれちゃったりするのかなぁ。さすがに泣かないと思うけど……昨日泣いちゃったのは玲央が歌なんて歌ってくれちゃうからだし……なんて思いながらも、なんだか本当にパーティーっぽいなぁ、なんて、自分の服装を見ながらも、何だかとってもワクワクしながら。
「入るね……?」
そー、とドアを開けるけど、やっぱり、中、暗い。と思った瞬間。ぱ、と電気がつくのと、思っていたよりもすごくたくさんのクラッカーが鳴るのが同時だった。
クラッカーのすごい音がやんで、とっさに閉じてた瞳を開くと、たくさん聞こえるおめでとうの声に、呆然。
「――――……」
玲央と勇紀と颯也と甲斐が居るのは分かってた、んだけど。
「……え」
お父さんとお母さん一樹と樹里、稔と智也と美咲、蒼くんと久先生と希生さん。皆の顔を見た瞬間は、なんか突然降って現れたみたいな感覚で。全然意味が分からなかったんだけど。
……でもすぐ、玲央が呼んでくれたんだなって、分かって。
「――――……ッ」
ぼろ、と涙が零れた。
さっき、オレが、関わってきた人たちも大事だとか言ってたのも。なんだか不意によみがえってきて。
玲央が苦笑いで、寄ってきて、タオルを渡してくれる。
「絶対泣くとは思ったけど」
クスクス笑ってる玲央に、「だって……」と涙をタオルで拭いていると。
「サプライズしがいがあるな?」
玲央にクスクス笑われて、泣きながら笑ってしまう。
「絶対ゆづ兄、泣くと思ったー」
「オレも思ったー」
樹里と一樹がめちゃくちゃ笑顔で抱き付いてくるし。
「……あれ、なんかすっごく可愛いカッコしてる」
樹里は綺麗な水色のドレスで、一樹もスーツなんか着ちゃってるし。
二人の格好を見て、涙声でそう言うと、二人は嬉しそうに笑った。
「ていうか、オレはカッコいい、だし!」
そんな風に得意げな一樹に、部屋に居る皆が笑う。
「玲央くんが、送ってきてくれたの」
「そうなの?」
樹里の言葉に、びっくりしたまま玲央を見上げると。
「優月の見に行った時、良い感じの見つけたから」
「……ありがと…」
優しく微笑む玲央に、またウルウルしてきて、オレはタオルに顔をうずめた。
(2023/3/6)
……まだ続く~(˶ᵔᗜᵔ˶)
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