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第654話◇
授業が終わってから、メンバー皆で食事をしに店に寄った。
注文を終えて、一息ついたところで。
「優月って毎週絵を描きに行ってんの?」
颯也に聞かれて、そう、と頷く。
「そんなに続けたいのに、美大とか行かなかったのは何で?」
「先生になりたいって夢もあるんだってさ」
そう言うと、メンバー皆が、ああ、と頷く。先生向いてる気がする、とそれぞれ笑ってるので、ちよっと顔が綻んでしまう。。
「玲央って、優月の絵って見たことあるの?」
「ああ……こないだ絵の教室に迎えに行ったら飾られてたから、見てきた」
甲斐の言葉にそう返すと、勇紀がぱっと笑顔になって「どんなだった?」と聞いてくる。
「んー……優月っぽかったな。優しい感じっていうか……花束の絵とか」
「へえー見てみたいなー」
「今日描いた絵、送ってくるかも」
「そうなの?」
「描いた絵見たいって、オレが言ったから」
そう言うと、皆が顔を見合わせて、ニヤニヤ笑う。
「んだよ?」
どうせろくなことじゃねーだろうけど、と思いながら聞くと。
「優月の描いた絵、送ってもらってまで見たいんだ?」
「ほんと。全部関わってたいって感じ?」
「ほんと半端ねーな?」
勇紀、颯也、甲斐が笑いながらそんなことを言う。
……まあその通りか。特に何も言うことはない、というか。
この感じのやり取りも慣れてきたし、こいつらも、ニヤニヤしながらも、最初の頃に本気で驚いてた口調ではなくなってきてる気もする。
「一生懸命描いた絵、見たいしな」
真剣な顔して描いてるんだろうなぁと、容易に予想がつく。
一生懸命なのも可愛いよな……。
ふ、と微笑んでしまうと。
「……ほんと優月すごいと思う、よな?」
颯也が呆れたような口調でつぶやいて、勇紀と甲斐に同意を求めてる。
「玲央をこんな風にしちゃうとか。……ちょっと前とは別人だし」
確かに、と頷いてる。
……慣れて来てるとは思ったけれど、やっぱり皆まだ不思議そうな部分もあるなと苦笑が浮かんだ。
「まあ……別人でもなんでもいいけど。多分オレずっとこんなだろうし」
そう言うと、勇紀が、何それ!と騒ぎだす。
「なんかさ、優月に激アマなのは分かんだけどさ。それ以外も、なんか穏やかになったよね、玲央。前だったらこっちがからかってたら、つっかかってきただろー?」
「確かにな。 なんか今日イライラしてるなーとかも、全然ねえよな」
「やっぱり早寝早起きとかって体と心に良いのか?」
勇紀、カイ、颯也の順で次々笑いながら言うので、もう敢えて「相当健康的だから、精神、落ち着いてんじゃねえの?」と言ってやる。三人は超ニヤニヤしていたのに、バッとオレを見て。
「……なんかやだ。健康的な玲央とか変すぎる」
勇紀の言葉に、二人が小さく頷いてる。「健康的で朝早くて良いって言ってたろ」と言うと、皆、苦笑い。
「ああ、そういえばさ」
オレが言うと、勇紀が「なに? またのろけ?」と苦笑い。
「ちがうって。……こないだ教室に絵を見に行った時は無かったんだけどさ」
「ん?」
「優月が描く人物画がさ、優月っぽくないんだって」
「どゆこと?」
勇紀が首をかしげて聞いてくる。
「オレ、教室に貼られた絵で、優月っぽい雰囲気の絵を探して、これかなーとか当ててたんだけど」
「当たった?」
「ああ。優月っぽい優しい感じだったから。まあ何枚かそういうのあったんだけど、ぽいなーっていうのはあったから」
「まあ、優月っぽいって、オレらでもなんとなく分かるよな」
甲斐が言うと、颯也も頷く。
「でもなんか、優月が人物画を描くと、描かれてる人の雰囲気になるから、優月っぽいのを探しても分かんないから面白いんだよって、優月の先生が言ってたんだよ」
「へぇ。面白そう。玲央が曲作ってる絵も、確かに玲央っぽかったもんね。なんか、ものすごーいストイックな感じ」
「うまいよな、優月。絵はあんまり詳しくないけど、ずっと描いてるだけのことはある気がする」
そう言いながら、運ばれてきたアイスコーヒーを一口飲むと。
「なあ、オレ、なんかちょっと面白いこと思いついた」
颯也がニヤニヤしながらオレ達を見る。
「いつかさ、優月にオレらの絵を描いてもらって、アルバムのフォトブックとかに入れ込むっていうのは? 良くないか?」
そう言った颯也に、オレも甲斐も勇紀も、数秒固まる。
「……いいな、それ」
少し考えた末、オレが言うと、待ってましたとばかりに、勇紀が、採用、と騒いでる。
「甲斐、美奈子さんと里沙さんにも聞いといて」
オレが言うと、甲斐が面白そうに「OK」と言って笑う。
「OK出るまでは優月には内緒な」
言うと、三人が同時に了解、とハモり、顔を見合わせて笑った。
(2023/3/26)
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