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第650話◆番外編【優月・お誕生日】8
写真は見切れない位あって。一樹と樹里があれこれと楽しそうに止まるから、余計に進まない。皆の片付けの方が先にどんどん進んでいくのを、なんとなく目に映していると。
「ゆづ兄~?」
「ん~?」
樹里に呼ばれて返事をすると、樹里はオレを見て、あらら、と面白そうな顔をして笑う。「ん? どした?」と笑ってると、そのやりとりに、写真を見てた一樹も顔を上げてオレを見た。
「……ゆづ兄、なんか、ぽわーん、てしてるね」
「ねー」
二人にクスクス笑われて、「え、そう?」と顔に触れる。
確かにちょっとだるいというのか。ぽわぽわは、している。
て言っても、玲央にキスとかされて、頭のなかぽわぽでおかしくなっちゃってる時よりは、全然マシだと思うのだけど……。
「ねー、おかあさーん」
樹里が母さんを呼んで、「ゆづ兄がー」と訴えている。母さんが近づいてきてオレを見ると、またクスクス笑われる。
「少し酔った? 気持ち悪いとかはない?」
「ないよー。どっちかというと、イイ気分かも」
ふわふわしてて、幸せで。
ふふふ、と自然と笑いが零れた。
「「ゆづ兄、大丈夫?」」
一樹と樹里の声がかぶる。
「大丈夫だよ。もう今日、飲まないし」
そう言って、二人に微笑む。
「玲央くんにいっとこう!」
「うん、そだね!」
「え、何を??」
「「もう飲ませないでって!」」
二人がまたハモって、たたたたー、と玲央のもとに走っていく。気づいた玲央が、ん?と優しく笑んで話を聞いてる姿も大好き、だなんて思いながら見守っていると、ふ、と玲央が顔を上げて、オレを見た。
あ。
ちょっと離れた所で目が合う。
……こんな視線が絡むだけでも、ちょっと、ドキっと、するとか。
オレ、玲央のことが、大好きすぎる……。
何とも言えず、視線を合わせたまま止まっていると、玲央は、ふ、と笑んで、それから一樹と樹里に何かを話した。
二人は、うんっと頷いて、こっちに戻ってくる。
「玲央くん、何て?」
お母さんがクスクス笑ってそう聞くと。
「もう飲ませないから、安心して、て言ってた」
「あら」
樹里の言葉に、母さんはクスクス笑う。
あれれ。
……あとで玲央と二人で、お酒飲もうって、思ってたのになぁ。
ちょっと残念に思いながらも、オレそんなに、酔ってるように見えるのかな。とちょっと心配になる。
「じゃあそろそろ退散、しよっか」
勇紀たち何人かがそう言いだして、皆、鞄を持ったり、上着を着たり慌ただしく動き始めた。準備ができた人から、靴を履いて、ドアの外に出ていく。
最後に靴を履いた蒼くんが、忘れ物無さそうか見てきて、と玲央に言う。頷いて中に戻った玲央が、大丈夫そうと言うと、蒼くんが玄関を開けた。オレと玲央も靴を履いて一緒に廊下に出る。鍵を持って出た玲央に、蒼くんは「良いよ、見送りは。皆駐車場とか駅とか、バラバラだしな」と言った。
玲央とオレが顔を見合わせていると、皆も「ここでいいよ~」「またね~」と口々に言いながら、歩き始める。
「じゃあエレベーターまで行こっか」
「うん」
玲央の言葉に頷いて、エレベーターまで一緒に移動した。到着したエレベーターに順番に乗り込んでいく皆と色々話しながらお別れしていって、最後になんとなくバンドのメンバーが残った。
「ありがとな」
玲央がそう言うと、皆、ニヤニヤ笑う。
「優月が言うとこなんじゃない?」
「そーだよ、何でまっさきにお前が言うの」
「オレの嫁が世話になったー的な感じだよな」
勇紀、颯也、甲斐がそれぞれからかうように言って笑いながら、玲央を見る。苦笑いの玲央の横で「ありがと、皆」とオレが言うと。
「なんか、優月、少し酔ってるでしょ? ははっ。やっぱ、可愛い感じになるんだねー」
クスクス笑いながら、勇紀がオレの肩をポンポン、と叩いた。
「また近々飲もうなー?」
そんな話をしている内に到着したエレベーターに、皆が乗り込んだ。
「おやすみー」
そう言い合う中、エレベータの扉が閉まる。エレベーターの窓からのぞく皆とバイバイして、それが見えなくなると、一気に、静かになった。
「帰ろ、優月」
玲央の手が、肩に回ってきて、そっと、促される。
「うん」
皆が居なくなって、ちょっと寂しいんだけど。
……玲央と二人だなぁと思った時から、めちゃくちゃドキドキし始める。
「酔ってる?」
「んー……いい気分、かなぁ?」
「どん位、飲んだ?」
「あのちっちゃいグラス二杯と……あと、勇紀が飲んでたのも貰った」
「何飲んでた?」
「ブドウのサワーだって。ジュースみたいって思って飲んだんだけど」
「初の酒は、美味しかった?」
「うん、甘かったー」
言うと、玲央は、クスクス笑いながら、部屋のドアを開けた。
「まあ、初のお酒が、いい思い出になったなら良かった」
靴を脱いで、玄関に上がりながら、玲央がそう言って、オレを振り返った。オレも靴を脱いで、玲央の側に立った瞬間。
やっと。
抱き付ける。
そう思った。
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