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第656話◇

「今頃真っ赤だろうね。ってさっきも真っ赤だったけど」  クスクス笑う勇紀。 「行ってきてあげたら? 一人で死にそうになってんじゃねえの」 「同感」  甲斐と颯也も笑いながら言う。まあもう言われる前から、行こうと思ってたけど。  部屋を出て、洗面所をそっと覗くと。  左手を洗面台についてがっくりうなだれたまま、右手で持った歯ブラシで、何やら力なく歯を磨いている感じの優月が居た。つい、ふっと笑ってしまうと、びくうっと震えてこっちを見て、オレと目が合うと、ふにゃ、と顔を崩した。泣きそうというのか、とにかく困り顔。 「待ってね?」  言って早々に歯磨きを終えると、優月は口をすすいでから、オレを見上げた。 「ごめん……寝ぼけてて……」  オレと向き合って、俯いて、しょぼん、としている。 「何でそんな顔してんの?」 「え、だって……なんか……良く分かんないけど、なんか、やでしょ?」  しょんぼりしてる優月が、なんだかやたら可愛い。  なんだこれ、何でこんなに可愛い訳?  「何が嫌だと、思ってんの?」  顔赤いし、それを隠すみたいに少し俯いてて、でも、少しオレを見ようとはしてるから、それはどうしたって、上目遣いに見られることになる訳で……。 「……だって、皆の前で抱き付いちゃったし……」  しょんぼりした顔でオレを見上げてくる優月は。 「優月」 「……?」  顎に触れて、上向かせる。 「……抱き付かれて、可愛かった」 「――――……」  そう言われるとは思っていなかったみたいで、優月は、目をぱちくりして、オレを見つめる。 「……嫌じゃなかった?」 「キス位、してくれても良かったのに」  そう言うと、優月はまた赤くなって、無理無理、とプルプル首を振った。 「……なんか、一気に、目が覚めちゃった。ほんと、びっくりした……」    オレを見上げながら、困ったように言う優月。  引き寄せると、腕の中にすっぽりと抱き込んだ。 「……さっき皆に気づいた時、優月の背中が、ぴーんって伸びたの、分かった」  クックッと思い出し笑いをしながらそう言うと、優月は、うー、と腕の中で唸ってる。 「だって、皆とばっちり目が合っちゃって……」 「うん」 「……す、ごい恥ずかしかった……」 「……うん」  聞けば聞くほど可笑しくて笑ってると、優月が、むぎゅ、と抱きついてきた。 「オレ……玲央にいつも甘えちゃってるけど……」 「ん」 「それ、見られるのは、恥ずかしいね……」 「……まあ、そだな」  ふ、と笑ってしまう。 「優月が甘えてんの可愛いから……オレ以外に見せんのは、もったいないかも……とは思う」  思うままに言ったセリフだったのだけれど。  言って少しした後、優月が顔を上げて、オレを見上げて。 「……もったいなくは、ないと思うんだけど……」  と言いながら、苦笑い。 「でもなんか……ありがと、玲央」  そのまままた、すぽ、と腕の中に戻ってくると。 「玲央、やさしい……」  むぎゅ、としがみつかれるのも。  ……まあ。ほんと。  心の底から、可愛いなと、思う。        

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