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第658話◇

    優月が寝てから、しばらく経った。  はわ、と勇紀があくびを零して、「ねむ」と漏らしたのに気づいて、時計を見やると、もう二時を回っていた。 「そろそろ寝るか?」 「んー、そうだねー……」  またあくびをしながら勇紀が返してくる。 「順番にシャワー浴びようぜ。勇紀、先に行って来いよ」 「うん。そーする。お先。すぐ出てくるから」  相当眠いのを我慢していたのか、またあくびをしながら勇紀が部屋を出て行った。 「結構時間、経ってたな」  腕を伸ばしながら、甲斐がそう言う。 「集中してたから気づかなかったな。何か飲むか?」 「んー水?」 「キッチン行くか……」  颯也と甲斐と一緒に部屋を出る。キッチンとは逆方向、優月が寝てる寝室の方を少し見て、前を向きなおすと、後ろで颯也が笑った。 「優月が気になるんだな」 「……なんとなく見ただけだって」  そう返すと、「気になるから見たんだろ」と笑われる。  ……まあ、そうだけど。ぐっすり寝てるかな、となんとなく思った。  気になるとか、そんな意識も無いまま、見ただけだけど。  まあ見てしまうってことは、気にしてるってことか……。そんな風に思いながら、冷蔵庫からペットボトルを取り出して、甲斐と颯也に渡した。二人は礼を言って受け取って、ソファに腰かけた。 「曲出来たら練習しないとな」 「今年は優勝したいもんな」 「まあ、そうだな」  甲斐と颯也の言葉に、しみじみ頷く。 「優月の前で負けたくないだろ?」  と甲斐がニヤニヤ笑うので、一度頷いた後、何となく窓際に近づく。 「なんかでも……」  カーテンを開けて、夜空を見上げて、少し考える。 「なんか、優月は勝ち負けは関係ない気がするんだよな」  言いながら二人を振り返ると、少し沈黙の後。 「……確かに」  と、ぷ、と笑う二人。 「まあでも……負けるとこ見せたくないけど」  優月が気にしないとしても、一番カッコいいところ、見ててほしい気がする。まあこれは、オレの勝手な想いだけど。 「はは。そういうとこは玲央っぽいけど」  甲斐が笑いながら返してくる。 「なあ、話変わるけど、今年はあれは出んの?」 「何?」 「イケメン投票」 「出ない」  颯也の声に即答すると、甲斐も「何で? 去年はバンドの話題作りで出たじゃん」と笑う。 「勝手にエントリーしたから仕方なくだろ」 「いいじゃん、二年一位なら殿堂入りしてくれるっつーし」 「いらねーし」  甲斐とオレとのそのやり取りを見ていた颯也が、ふうん、と呟いた。 「優月が出てって言ったら?」 「だから、優月は興味ねーと思うし」 「玲央が勝つとこ見たい―とかウキウキしてたら?」 「――――……」  数秒考える。 「……別に出てもいいけど」  二人が、ふはっと変な笑い方をしたところで、勇紀が戻ってきた。 「何々、どーした?」 「早いな?」 「だって皆も早く入りたいと思ってさ。で、何笑ってたの?」  オレは冷蔵庫から勇紀の分の水を取り出して、ほら、と渡しながら、なんでもない、と言ったのだが。 「玲央がイケメンコンテスト、優月が言うなら出てもいいっつーから」 「え、マジで? エントリーしようーっと」  もう絶対出ないって言ってたのにね、と勇紀が楽しそうに笑っている。 「優月が言わなかったら出ねーからな」 「……はいはい、もうあれだね、玲央」 「何」 「マジでべた惚れって感じ」  クスクス笑う勇紀に、一瞬、まあそうだけど、と思っていると。 「まあそれも分かってるからもういいけど。オレ、次入ってくる」  笑って言いながら、颯也が部屋を出て行った。 「玲央、ドライヤー貸して」 「洗面所の鏡のところの扉ン中」 「あ、そうだった。了解ー」   勇紀が消えて、甲斐と二人になると、甲斐が、ふ、と笑った。 「少し前まで、セフレの話、同じようにお前としてたのにな?」 「……そうだな」  確かにほんの少し前まで、そんなだったなと、苦笑いが浮かぶ。 「変わりすぎって思うけど……そんな一人にのめり込んでるの見ると、オレもそうしよっかなーとかちょっと思うかも」 「へえ。良い奴居ればいいんじゃねえの」 「真剣に探すか」  ぽりぽり頭を掻いて、甲斐がクスクス笑ってる。 「探せば。……一人を可愛がってンのも、結構、イイと思う」 「――――……」  マジマジ見つめられて、なんだよ、と言うと。 「いや……優月すげーなーと、思ったとこ」  ぷ、と笑う甲斐に、笑ってしまう。    

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