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第659話◇
甲斐の後、最後にシャワーを浴びて、髪を乾かしてリビングに戻ると、もう布団もすっかり敷き終えて、三人が寝転んでいた。
「ここに寝ると、朝起こしちまうけどいいのか?」
「あーそっか、玲央たちは向こうのマンション帰ってから学校だっけ?」
「ああ。だから早いし。空いてる部屋で寝た方がいいんじゃねえの」
そう言うと、三人は少し間を置いてから。
「起こしていいよね?」
勇紀が言うと、甲斐と颯也も頷く。
「玲央達、ここで朝飯食べる?」
「考えてなかった。お前ら食べるなら、もう下の店から取るけど」
言うと、それがいいーと勇紀が言って、二人も頷いてる。
「了解。朝頼む。じゃあ起こすぞ」
「いいよー。優月と朝ごはん、食べれるしー」
勇紀のセリフに、甲斐が笑いながら。
「あんまり優月のこと好きだ発言してると、玲央にやられるぞ」
「え、マジで?」
「さっきも、一人を可愛がるのもイイとか、やたらノロケてたし」
甲斐は言いたいことだけ言うと、欠伸をこぼして、「ダメだ、もー寝る」と枕に沈む。
「……電気消すぞー」
おやすみを言い合って、電気を消すと、リビングのドアを閉めた。静かに廊下を歩き、寝室のドアをゆっくりと開けると、小さな明かりがついていた。
ベッドに近づくと、優月はぐっすり眠っていた。
気持ち良さそう。起こさない方がいいよな。
そう思いながら、なるべく静かにベッドに腰かけて、ゆっくり布団に入った。
優月が寝てるから、布団の中が暖かい。
優月と付き合う前は、セフレんちに泊まったりすることもあったよな……。だから別に誰かと寝るのは経験として多いのだけど……。
……大体前の夜遅くまで遊んで、そうなって……朝寝不足のまま、無理無理学校に行くみたいな感じだったし。
……こんな穏やかに、誰かが寝てる体温を。
愛しいなんて思ったことは無かったな……。
何に対しても緩くて適当で、欲にだけ忠実で。それが楽で、それでいいと思って。というか、そんなことすら何も考えず、日々過ごしていた気がするけど……。
今は、目の前の何をするにも丁寧にしてる気がする。
食事とか、睡眠とか、そういう当たり前に過ごすことに関しても。人と関わること、に関しても。
ただ、オレの世界に、優月が入ってきたという変化。
それだけなのに。
スヤスヤ眠ってる顔を見下ろしていたけれど。
そっと、頭に触れて、少しだけ。そっとそっと、撫でてみる。
柔らかい髪の毛と。少し肌に触れた手に感じる体温。
なんだかとてつもなく、愛しくて。
自分がこんなに優しい気持ちで誰かを見るなんてあるのかと驚く位に、心の中がほわっと暖かくなった気がする。
「……お前、すげーよな……」
ごく小さな声で呟いて、ふ、と微笑んでしまう。
……どうしようか。
思っていた以上にもう真夜中だし。起こさない方がいいのは分かってる。
だけど。
一度だけ。
「……ゆづき……」
さっきよりも小さく。囁くみたいな声で、呼んでみる。
でも起きない。当然。
聞こえてないだろうし。
また、顔が綻ぶ。
朝、抱き締めよう。……ほんの三時間後位だし。
そう思って、ゆっくりと優月の頭から、手をどけた。朝起きたら一番に朝食頼むか……なんて考えながら、枕に頭を沈めて目を伏せた時。
「……ン、ん……?……」
どうしても鳴ったギシ、という音のせいか。
布団が少し動いたせいか。
隣の優月が動きだして、少し目をこすってる。
数秒後、ゆっくり瞳を開く。顔をこっちに向けて、オレがいることに気づいた優月は、オレの顔の方に視線を向けてきた。ばっちり目が合う。
「悪い、起こしちまったな……」
そう言うと。数秒黙ってる。……寝ぼけてる?と優月を見てると。
「今、きたの……?」
「そうだよ」
「……ん」
もぞもぞ動いてきて、オレの体の上に、よいしょ、と重なってきた。
不思議に思ってると、優月はオレの顔の脇に両手をついた。自分の体を支えるためで、別にオレを囲ってる訳じゃなさそうだけど。
珍しい体勢。
オレが、優月に組み敷かれてるみたいな。何がしたいのかと、じっと見つめながら待っていると。
ぼーーー、とオレを見下ろしてた優月は。
にっこー、と嬉しそうに笑った。
「玲央……」
名を呼んだと思ったら。近づいてきて。
ちゅ、と唇にキスされた。
「――――……」
柔らかく触れただけの唇は、すぐに離れた。
何だかあんまりに可愛くて、じっと見つめていると。
「おやすみのキス……」
なんだか嬉しそうに、ふふ、と笑う。
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