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第662話◇
【side*優月】
着替えて、顔を洗ってリビングに近づくと、玲央がちょうどドアを開けて、部屋から出てきた。
「今、頼んだから。二十分位で来るって。着替えてくる」
「あ、うん」
「あいつら起こしといてくれる?」
玲央が笑いながらそう言って、親指でリビングを指した。うん、と頷いて、玲央と入れ替わりでリビングを覗くと、三つ布団が敷かれていて、なんだかもぞもぞ動いてる。多分、一応玲央が声はかけたんだろうなあと思いながら、布団に近づく。
「おはよー」
普通の声で呼びかけると、「んー」と誰かよく分からないけど、一応返事が聞こえる。昨日皆遅かったんだもんねーと、苦笑してしまう。
「起きれそう?」
そう言うと、起きる―とか、んー、とか。
そういえば皆が目覚めるとこ見るのって、初めてかも。こんな感じなんだなーとクスクス笑ってしまう。
「玲央が朝ごはん頼んでくれたって」
そう言うと、颯也がムク、と起き上がった。
「……おはよ、優月」
「おはよー」
目、あんまり開いてない。颯也はいつも割とクールな感じなので。
……なんかちょっぴり可愛く見える。
「……おはよーゆづきーー」
ゴロゴロ転がって、がばっと起き上がったのは勇紀。
朝から勇紀っぽくて、笑ってしまう。
「おはよ、目、さめた?」
「ん、さめたー」
寝起き良いんだなぁ、勇紀は。らしいかも。
甲斐は……と見ると、まだぐっすりと寝てる。
呼んで聞こえた返事は颯也と勇紀のだけだったのかな。
「前は玲央もだったけど、甲斐も結構寝起き悪いんだよ」
少しあくびをしながら、勇紀が教えてくれる。「そうそ。ほんと寝ぼけてる時あるよな……」と、颯也も眠そうに言う。
「甲斐ー起きれる?」
布団に膝をついて、ぽんぽんぽんと布団を叩く。
「あ、あんまり側に行かない方が」
「え? なん――――……」
勇紀がちょっと慌てた声に、何で、と言いかけたオレは。
グイっと引き寄せられて、え? と驚いたまま、布団に引き倒された。
「………………っっ!?」
何だか分からないけど、抱き枕みたいにされて、身動きが取れない。
「か、かい??」
「……んー……」
力が強くて、起き上がれない。
「あーあ……ちょっと待ってね、優月」
見えないけど、勇紀が助けに来てくれようとして立ち上がる雰囲気。
「なんのつもりか分かんないけど、たまにこれするんだよねー。しかも、本人は布団に引き込んだこと、大体覚えてないの」
クスクス笑いながら近づいてきてくれた時。
「優月、起こせた?」
そんな風な玲央の声が聞こえた。わ、と慌てて起き上がろうとするのだけれど。全然起き上がれない。
「……優月は?」
不思議そうな玲央の声と。
「あー……ここ」
と、バツの悪そうな勇紀の声がする。
黙って、近づいてきた玲央は。はー、とため息。
わーん、違うんだようー!
って、何が違うのかもいまいち良く分からないながら、なぜかとっさに頭の中で出た言葉はそれだった。
焦ってると、なんだか、あれよあれよと動かされて、はっと気づいた時には、玲央の腕の中に引き込まれていた。
「あ、れお……」
「大丈夫か?」
「ち、ちがくて……あの」
えっと、と玲央を見上げていると、玲央は、プッと笑い出した。
「……浮気した言い訳でもするみたいな顔すんなよ」
クスクス笑って、オレの頬に触れて。
「あーもー……可愛い……」
ちゅ、と頬にキスされて、あ、良かった、と思ってると。
勇紀が呆れたように笑いながら、甲斐の布団を掴んだ。
「ほらほら、お前のせいで、朝から激アマなキスシーン見せられてるだろー、起きろよ、甲斐―」
布団を剥がれて、無理無理起き上がらされて、甲斐はようやく目を開けた。
「……なん、だって?」
寝ぼけた声に、苦笑い。
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