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第665話◇
何とか落ち着こうと、お布団を畳み始めたところで、「あ、優月ごめーん」と勇紀の声がして、皆が戻ってきた。畳んだ掛け布団を部屋の端に移してくれるので、オレは、部屋の窓を開けた。
「今チャイム鳴ってたね」
「うん。今玲央が取りに行ってくれてるよ」
「そっか。布団、これ、寄せとけばいいよね」
「部屋の掃除頼むだろうからいいだろ」
甲斐も頷いて、颯也も一緒にお布団を畳んでいると、玲央が袋を持って戻ってきた。
「優月、皿に並べるの手伝って」
「あ、うんっ」
玲央のところに急いで寄って、玲央がカウンターに置いた袋を一つ開く。
「コーヒー、良い香りー」
「そうだな」
すうと息を吸うと、横で玲央が、ふ、と笑む。
「皆って、お砂糖とミルク、入れる?」
「あー、オレ入れたい」
勇紀だけそう言うので、オレと勇紀のはミルクとお砂糖を入れてかき混ぜる。それから玲央が出してくれたお皿に、サンドイッチゃサラダを並べていった。
「おいしそう」
そう言いながら、あ、と気づいた。
そういえば出会って最初の頃、ここで朝ごはん取ってくれたっけ。
……なんか、ちょっと懐かしいような気がするけど。でもそんなに経ってないし。不思議な気分。
今もドキドキで死にそうではあるけど、あの時は今よりももっと、どうしたらいいのか分からなくて、戸惑ってばっかりだったような……。
あの時は、玲央と恋人になれるなんてかけらも思ってなくて。ちょっとでもいいから一緒に居たいとか、そんなで。
お皿にのせた朝食をテーブルに運びながら、少し前のことを思い起こす。
あの時に比べたら、今のこの状況が、不思議すぎる。
玲央と恋人になってて。お互いの友達も、もう結構知ってて。皆、なんだか好意的に受け止めてくれて。今は、玲央のバンドの人達と一緒にお泊りして、朝ご飯食べようとしてる。なんて。
ふふ、と笑ってしまうと、ん? と勇紀に顔を見られた。
「なんか、ここに居るのが不思議で」
そう言うと、んー、と勇紀がにっこり笑ってオレを見つめてから。
「オレはもう、優月が居るの、当たり前になってるけど」
「え」
「もともとはオレと優月だけで、二人で会ってたけどさ。今は玲央と皆と居るのが、もう当たり前になってる」
ふふ、と笑ってそう言いながら、勇紀は席に座った。
「ほら、コーヒー」
玲央が言いながら、持ってきたコーヒーをテーブルに並べた。颯也と甲斐もやってきて、勇紀の向かい側に並んで腰かける。
「優月、こっち座る?」
「あ、うん」
勇紀に言われて、その隣に腰かけると、すぐにオレの隣に玲央が座った。「ふーん」と言いながら、勇紀がクスクス笑う。
「別に玲央は甲斐の隣でもいーのに」
勇紀のからかいの声に、玲央は視線を送るだけ。
玲央の手がぽんぽん、とオレの頭に置かれた。
「食べよ」
優しい触れ方と視線に、うんうんと頷いて、手を合わせる。
「いただきます」
そう言ってからふと勇紀を見ると、なんかもうすごい苦笑しながら、いただきまーすと言ってる。甲斐と颯也も、笑みを含んだ声で、いただきますを言って、食べ始める。
「この甘々には砂はきそうになるけど……」
笑いながら言った後、勇紀はオレを見た。
「優月が、玲央とこうなって、よかったなーと思ってるよ。ね、そうだよな?」
勇紀がそう言うと、甲斐と颯也も、ぷ、と笑って、そーだなと頷く。
「……ありがと」
嬉しくて、そう言いながら笑うと。
皆もまた笑い返してくれる。
玲央は、サンドイッチを食べながら、オレを見て、「嬉しそ……」言いながら、クックッと笑ってる。
……だって嬉しいもん。
大好きな人のいつも近くに居る、皆。仲良くなれるのは、ほんと、嬉しい。
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