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第666話◇
「優月」
「ん」
玲央が何かを持って、オレの口の前に出してくる。自然と口を開けて、口に入れて、噛むと、口の中に甘い味。
「おいしー」
サラダに乗っかってたミニトマト、だったみたい。
「甘いね、これ」
「な。オレんとこ二個入ってた」
サラダはお皿に適当に分けちゃったから、オレのにはミニトマト乗ってなかったみたいで。だからくれたんだなーと思いながら、ありがと、と笑うと、玲央も、ふ、と瞳をやわらげる。
「優月、好きなの? ミニトマト」
「うん。好きだよ」
勇紀に聞かれて、頷くと、ふーん、と笑われる。
あーんて、食べさせられたからかな? そう思ったら、甲斐がクスクス笑った。
「今、優月って、玲央が何持ってるか見てから口あけた?」
「え? あ、見てない。何だろ、と思いながら食べたけど……?」
「――――……」
面白そうに見られて、ん?と聞くと、甲斐はなんだか苦笑い。
勇紀はオレ越しに玲央を見ると「これは可愛いねー」とか言ってる。玲央はチラッと勇紀を見て、なんだか少し笑ってるから、「これ」の意味が分かったみたいだけど。
「なに??」
甲斐と勇紀と玲央を順番に見ながら聞くと、向かい側で颯也が「分かんねーの、優月?」と聞いてくる。
「うん」
この感じだと、皆が分かっていそうな感じだけど。
え、何のことだろう、と、誰かが何かを言ってくれるのを待っていると。
「普通は、何もってるか分かんないと口開けないよなってことだろ?」
颯也が甲斐にそう言って、クスクス笑う。
「そう。玲央のこと、もう無条件に信じてるみたいな」
甲斐も笑いながら言うと、勇紀が「だからこれは、玲央、可愛いだろうなぁと思ったんだよね」と続ける。
そう言われてみたら、そうかもしれないけど。
玲央がオレに食べさせてくれるものは、全部美味しいものなんじゃないかと、思ってる……かもしれない。……ていうか、かもしれないじゃなくて、もう、思ってるけど……。
「…………」
言葉に詰まって、もぐもぐ食べながら無言。
……んー。
「あれ? 優月?」
ちょっと斜め前のテーブルのマグカップ辺りをただ、じーと見つめながら無心……になろうとしたんだけど、勇紀に呼ばれて、ちょっとのぞきこまれて。
もう無理だ……。
「……なんかオレ、恥ずかしいんだけど……」
額を抑えて、んー、と唸ったオレを、ぷ、と笑った玲央が覗き込んできた。
「また赤いし……」
クスクス笑う玲央がよしよし、と撫でてくるけど、その言葉にますます恥ずかしくなる。
「……そうだよね、普通は何食べるかちゃんと見るよね」
考えるほどに、そんな気がしてきた。
なんかオレ、警戒心、ほんの少しも無いのでは……。
「何も警戒しないで口開けんの、すげー可愛いから、そのまんまでいーけど」
「――――……」
正直、ちょっとオレ、警戒心みたいなのなさすぎな感じがして、恥ずかしすぎるとちょっと反省モードだったのだけれど。玲央のその言葉で、はた、と玲央を見つめる。
「え、いいの?」
「良いに決まってるし」
「…………」
……ちょっと恥ずかしいのは否めないけど。
でも玲央が良いって言ってくれてるなら……いっか。
「……いいみたい」
勇紀の方を見て、そう言ったら、勇紀は一瞬きょとんとしてから、あは、と笑い出した。
「悪いなんて言ってないよ」
クックッ、と笑いながら、勇紀がぽんぽんと背中を叩いてくる。
颯也と甲斐も笑ってるし。
……そういえば、オレ、何でだか、食べる?とかで食べさせてもらうことが今までも多くて、食べさせられることに、あんまり抵抗はない。……けど、何を食べさせられるか分からないまま、口を開けるっていうのは、してきてない気がする。それは玲央だから、な気がする。
だからやっはり。
……勇紀とかの目には、不思議に映ったんだろうな。と一人納得していると。
「つーか、玲央があーん、みたいに食べさせるとか、今までねーしな。それだけでも、目が点だけど」
甲斐が面白そうにそう言う。「ほんとだよな」と颯也も続ける。
…………。
……そっちも不思議なのか。
じゃあ、さっき、自然と、あーんてさせに来た玲央も、自然と口開けちゃったオレも、もう全部まるごと、不思議だったってことかぁ……。
……よそでやらないように、気を付けようかな。うん。
玲央にもいっとこうかな。と思ったのだけれど。隣の玲央を見ると、ん?と優しく笑われるので。
…………やっぱり、言わなくていいやと。思ってしまった。
(2023/4/30)
666話だ(*^▽^*)♡
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