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第667話◇

 食事を終えて、皆より一足先に、出かける準備を済ませた。 「じゃあな」 「いってきまーす」  玄関に送りに来てる皆に手を振って、家を出る。そのままエレベーターに乗って、駐車場まで下りた。 「玲央、眠くない?」 「今は平気だな……どうだろ、授業中眠くなるかな」 「結構遅かったもんね? 朝早いし。ごめんね、玲央、一限無いのに」  いつもいつも付き合ってくれて、申し訳ないなと思いながらそう言うと、玲央はオレの頭をくしゃくしゃ撫でた。 「オレが勝手に一緒に居るのに謝るなよ」  クスクス笑って、オレを見つめる。  ……好きすぎるんだけど……。  きゅんて、するこの心臓の感じを、玲央にも、感じさせたいなあ。  毎日どれだけ、胸の中が賑やかか。 「こんなに朝起きるの得意だと思わず生きてきたけどな」  玲央は可笑しそうに笑いながらそう言う。 「オレ、朝、苦手なんだと思ってたから」  車をリモコンキーで開きながら、玲央が笑う。  ドアを開けて、助手席に乗り込んで、隣に並ぶ。それだけで嬉しいなと思ってしまう。  運転する玲央、カッコよくて、すごい好き。  ご機嫌でシートベルトを締めると、なんだかじっと見つめられる。 「今何考えてんの」 「え? ……あ。オレ?」 「うん」  笑いながら、玲央もシートベルトを締める。 「え、どうして?」 「……嬉しそうな顔してるから。どうしたのかと」 「…………」  バレバレすぎて、自分でも、少しどうかと思いながら。  エンジンをかけた玲央に視線を向ける。 「……車運転する玲央、カッコいいなーて」  そう言ったら、玲央は、ん?とオレを見てから。クスクス笑い出した。 「運転してる時だけ?」 「……ちがうよ」  ぷるぷる首を振って、「いつも」と言いかけた時。  腕を引かれて、ふ、と笑んだ玲央が近づいてきて……。  玲央の唇が、オレの唇に、触れた。  ほんの一瞬だけ触れて、離れた唇が、形よく笑みを作る。 「なんなのほんと。朝から、可愛いし……」  くしゃくしゃと髪の毛を混ぜるみたいに撫でられて、玲央が離れる。  乱れた髪を軽く整えながら、もう、一瞬で跳ね上がった心臓を落ち着かせようと頑張っていると。 「オレ、もっとカッコよくなるかもな?」  クスクス笑いながら、玲央がハンドルに手をかけた。  え? もっと?  それはもう嬉しいけど、これ以上カッコよくなっちゃったら、オレの心臓が持たないかもしれないのだけど。でも玲央がカッコよくなるのは、もうずっと、見ていたいような……。  静かなエンジン音で、走り出して、地上に上がると、ゆっくり道路へと合流して走り出した。 「朝日、眩しいな……大丈夫か?」 「うん、オレは平気……」  確かにちょっと眩しいけど、と思いながら、玲央の方を見ると、横のポケットから取り出したサングラスを、かけるところだった。 「――――……」  ひゃー……。  かっこいい。  ……なんか。  …………なんていうんだろう。……芸能人みたい。   いや違うな、芸能人だもんね、玲央。なんていうんだろう。何みたいって……えーと。  ……すごくすごく整った、絵、みたい。  ぽけー、とずーっと玲央の方を見ていたら、少し後、ぷ、と笑われるとともに一瞬視線を流されて、はっと気づいた。  オレ、見すぎだよね。  でも、カッコよすぎて。  ……カッコいいというか。ほんと。  完成された絵みたい、だなあ。   「……優月」  信号で止まった玲央が、クスクス笑う。 「そんなにさ、見つめられると、さすがに照れる」 「……っご、ごめんね」  わー、ごめんなさい、オレも分かってた、見すぎだって。  でも言われた言葉に、どんだけ見てたんだろうと改めて気づいて、もうまた赤面。すると、玲央の手が、ふ、と頬に触れた。 「熱いし……」  クックッと笑いながら、すり、と撫でて、またハンドルを持ち直す。 「だからさ」 「……??」 「そんなにカッコいいって顔で、ずーっと見られてるとさ」 「……ごめん、やだよね、見すぎるの気を付け」 「違うって」  ちら、とオレを見てから、また前を見て、車を発進させながら。 「ずーっと横でそんな風に見られてたら、オレ絶対、もっとかっこよくなると思うんだけど。どう思う?」  クスクス笑いながら、聞いてくる玲央。 「オレが、優月に、可愛いって言い続けてると、可愛くなる気、しない?」 「……なる……かな??」 「嬉しいだろ?」 「うん」 「多分、可愛くなると思うんだよな」  そうかな?と首をかしげていると。 「オレもそうなる気がする」  可笑しそうに笑う玲央に。 「玲央は、オレが見ても見なくても、絶対どんどんカッコよくなると思うよ」  そう言ったら、また、可笑しそうに笑われた。    「そういう根拠のないこともさ、キラキラした目で見られてると、そうなりそうな気がする」  玲央は笑いながらそう言った。  オレは少し考えてから。 「オレが見てれば玲央がカッコよくなるなら……見るだけならずーっとできるよ。ていうか見てたいし」  ふふ、と笑って答えると、「じゃあ見てて」と玲央がまた面白そうに笑った。

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