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第668話◇
マンションの部屋に入って、昨日着てた服を洗濯機に入れてから、玄関の玲央を覗いた。
「玲央の洗濯物はどこ?」
「あ、その袋の中」
「出していい? 洗濯機入れちゃうね」
「あぁ。ありがと」
玲央が昨日持って行ったものを色々片付けてる間に、洗濯機を回してからリビングに戻ると「優月、学校の準備しておいで」と言われた。頷きながら時計を見ると、意外と時間、ギリギリ。
結構早く起きたけど、ゆっくり色々してたからなぁ……そう思いながら、鞄に教科書を詰め込んだ。
「玲央、準備できたよ」
リュックを背負って、リビングにいた玲央に近づくと、振り返って玲央が笑う。
「行こ」
「うん。なんか忙しいね」
「だな」
ふ、と見つめ合ってなんとなく笑いながら部屋を出て、歩き始める。エレベーターにに乗ったとろで、玲央をまっすぐ見上げた。
「ありがとね、いつもつきあってくれて」
「いいよ。曲聞いてたりするとすぐだから。朝活って言うんだろ、朝、色んなことすんの」
「あ、うんうん。勉強したり、趣味とか、色々するんだよね」
ふふ、と笑いながらそう答えると、玲央は一瞬、んー、と唸って。
それから、口を押えて、ぷっと笑い出した。
「?? どうしたの?」
「いや、なんか……」
「うん?」
「……オレが朝活、とか……一生、縁ねえっつーか……考えもしなかったから」
自分で言って、ますます可笑しくなったみたいで、クックッと笑ってる。
すごく楽しそうに笑ってるから、なんだかものすごくときめいてしまう自分に少し焦りつつ。
「最近ずっと、玲央は朝活してるよね?」
「してるよな、いいかも、色々」
まだクスクス笑いながら、玲央はオレを斜めに見つめる。
「うん、いいとは思うけど……でも、ありがと」
「いいって」
玲央がオレの頭に触れて、ヨシヨシ、と撫でてくれる。
マンションのエントランスを出て、学校への道を並んで歩きながら、ふと、不思議だなーとまた思う。
少し前まで、知りもしなかった場所に、勇紀以外知らなかったバンドの皆と泊まって、一緒に朝ごはん食べて、玲央のマンションに戻って、一緒に登校。……しかも、玲央、一限無いのに、わざわざ付き合ってくれてるし。ていうか。……玲央、恋人、だし。
「……なんか、玲央とこんな風に居れるの、今でも夢みたいな気がする」
「んー? ……まあ、それはオレもかな」
「えっ、なんで??」
「何でって……何でそんな驚く?」
玲央は、また、笑いながらオレを見る。
「だって、オレにとって、玲央は夢みたいな感じだけど……玲央にとってオレは、そんな感じじゃないかなーと」
「……じゃあどんな感じだと思ってんの?」
「…………そう言われるとよく、わかんないけど……」
苦笑しながら玲央を見上げると、玲央はクスクス笑いながら。
「オレみたいなのに、優月みたいなのが興味持つだけでも、すごい話だと思うけどな?」
「……玲央みたいなのと、オレみたいなのって、どういう意味?」
「んー……普通は、優月みたいなタイプは、オレみたいなのは、敬遠するんじゃねえかなーと」
「……あー。なんとなく住む世界が違う気がするから?」
「まあざっくり言うと、そんな感じかな」
「……まあ、言おうとしてるとこは分かるけど……でも、そっちより、玲央がオレに興味持ってくれたことの方が、絶対、世の皆さん、不思議に思うよー」
「世の皆さん……」
何でかそこだけ繰り返して、玲央が、ぷ、と笑う。
「え、なんでそこ笑うの?」
「いや……なんか……」
「なんか変……??」
「いや、変じゃないんだけど……」
ちょっと顔を背けて、それでも、玲央がクスクス笑ってるのは分かる。
「もー玲央、なに笑ってるの?」
「いや……」
はー、と笑いをこらえてるみたいに息をつきながら、玲央はオレを見つめて、唇に優しい笑みを浮かべる。
「まあ、今一緒に居れるってことが、奇跡みたいなもんだよな」
と、言われて。おお、なんか、イイ……と感動。
感動そのままに、玲央を見つめて。
「……歌にしてほしい」
そう言うと、「もうありそう」と言って、玲央が、ますます笑う。
(2023/5/6)
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