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第670話◇

 もう一度、スマホが揺れたので、玲央かなと思って画面を開く。 「……」  高校の時、一番仲良しだった友達の名前に、玲央の時とは違う意味で顔が綻んだ。違う大学だとなかなか会えないけど、仲良いまま。 『おはよー優月。春休み以来だよな。元気?』 「元気だよ。|慎《しん》は?」  まだ教授がきてないので、すぐに返信を入れた。  |南野 慎《みなみの しん》は、高校一年と三年の時のクラスメート。  智也や美咲、中学までの仲良したちと別の高校で、ドキドキしてた時、一番最初に友達になった。出席番号で前後だったのもあるけど、気が合ったんだと思う。 『元気。今日、うお座の運勢、ダントツトップだって。優月に言っといてやろうと思って』 「そうなの?」 『ラッキーアイテム、オムライスだって』 「オムライス大好き」 『知ってる。だから余計思い出した』  その言葉と一緒に可笑しそうに笑ってるクマのスタンプが入ってきた。  ハムスターが転げて笑ってるスタンプを入れると、ふ、と口元が緩んでしまう。 「ありがと。蟹座はどうだった?」  高校の時から、毎朝星座ランキングチェックが日課で、良いと教えてくれる。そんな会話も何度もしたので、慎=蟹座も覚えてる。 『オレ今日二位。ビリはサソリだった』  ……玲央、サソリだよなー。  あらら。 「ね、サソリのラッキーアイテムは? なんか言ってた?」 『麻婆豆腐だって』 「ええー。学食にあるかなあ……」 『仲いいサソリ、近くに居んの?』  多分、面白そうにクスクス笑ってるんだろうなあ、慎。  こっち迄ちょっと可笑しくなりながら、「うん」と返す。 「伝えてみる、麻婆豆腐」 『そういや、好きな子出来た? 春休みは、今は居ないーって言ってたじゃん?』 「あ、そうだね」  そうだ。そんな話、したっけ。 「慎は? 彼女、仲良し?」 『うんまあ。いつも通り』 「じゃあ仲良しだね」 『そーかな』  オレは、と打ちかけて、何て入れようかなあ、と思ったところで教授が入ってきた。前にも人が居るから、あと少しだけなら打てるけど……。  あーどうしよう。 「授業始まるからまたね」 『ああ、オレもそろそろ。じゃあまたな』 「すごく、好きな人できたから……今度、聞いて」 『そうなのか? すごく?』 「うん」 『珍しい。すげー楽しみ。近々会お』 「うん。オレも会って話したい」 『オッケー、じゃあまたな』  バイバイのスタンプを送る。  スマホをしまって、教授の話に耳を傾けながら。  ……玲央と、って言ったら。  なんて言うかな。  絶対すっごく驚くだろうな。 「すごく」好き、ってそこにも「珍しい」って言われた。  ……まあなんか。自分でも分かる。  可愛いな、話しやすいな、で、「好き」は結構あったんだけど。  その「好き」が、今みたいな、すごく熱い「好き」じゃなかったことは、今になって、分かってきた。  玲央に会うまでの「好き」は、今よりもっと、普通の普通の「好き」で。皆、同じ「好き」だったというか。  ……玲央だけ。  どうしてこんなに、焦がれるみたいに、好きになったんだろ。  んー、としばらく考えて。  分かんないけど、大好きすぎるからいっか、と、結論づけた。  あ。と思い出して。もう一度、こそこそとスマホを取り出した。 「玲央玲央、今日、麻婆豆腐がラッキーアイテムだって。もし好きだったら」  と、玲央に向けてささっとメッセージを送ったら。 『好きだけど。分かった。あったら食べとけばいい?』  そんなメッセージとともに、笑ってるスタンプが届いた。  オレも、玲央がいつも可愛いと言ってくれる、ハムスターが笑ってるスタンプを送ると、今度こそスマホをしまって授業に向かった。

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