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第671話◇
二限が終わって、皆が立ち上がりながら、「昼どーする?」と言う。
いつもなら誰かが言った食堂に行くんだけど、せっかく慎がわざわざ連絡してきてくれたしと思って、皆を見上げた。
「今日オレ、オムライス食べたいんだけど……」
そう言ったら、皆が「ん?」とオレを見て笑った。
「オムライス限定なの?」
「うん。なんかラッキーアイテムなんだって」
「あーそうなんだ。占い?」
「うん、星座占いだって」
そう答えてると、皆がクスクス笑う。
「信じてんの?」
「優月、魚座だよな?」
聞かれることにうんうん答えながら、教室を出て歩き出す。
「オムライスあるとこってどこだっけ」
「四号館の方かな?」
「優月、そっち行くー?」
「うん。行こうかな。皆は?」
「いーよ、付き合う」
「別にどこでもいーし」
そんなこんなで皆で一緒に四号館の方にある食堂に行くことになった。
皆は何座なのとか話しながら、そんな話をしていると、誕生日の話になって、誰がお酒を飲めるとか、そんな話になっていく。
「皆が飲めるようになったら、全員で飲み会しようなー?」
「しようしよう~」
楽しそうと思って頷くと、皆がクスクス笑った。
「優月が最後かな? 三月だもんな」
「うん。どうだろ? オレ、三日だから、まだその後の人居るかも?」
「そっか。まあとにかく、皆で飲めるの楽しみだよな」
「うん」
皆で二十歳かぁ。
今ももう親元離れて暮らしてるし、こどもってわけじゃ無いけど、やっぱり二十歳ってちょっと特別な気がする。
お酒もタバコもオッケイになるし、年で規制されるものがほぼなくなる。
でもその分、責任もついてくる。……んだよね。
することも、全部自分で決める。一緒に居る人も。自分で選んで決めるってことで。
皆と話しながらも色んなことを考えながら、四号館の食堂に辿りつく。
「あ、オムライスあるよ、優月」
「ほんとだ。買ってこよ~」
オムライスの食券を買って、トレイを持って並ぶ。
誰と何を食べて、どこに行くかとか、何をして日々生きるかとか。
全部自由、かぁ……。
高校生の時とはまるで違うし、大学一年と二年も。二十歳の誕生日を境に、また全然違ってくる。
でもって――――……オレは、玲央と会って、今みたいになって。
会う前と後では、生活全部が違ってる。
今多分オレ、変換期なんだろうなあ。色々なことが今までと変わっていく。
このまま、一緒に二十歳を迎えて、ずっと一緒に過ごして、
……ずっと一緒に……居られるかなあ?
ずっとずっとずっと、いまのまま、大好きなまま、居たいけど。
「混んでるなー?」
「あ。オムライスにするの?」
「ん。聞いてたら食べたくなった」
ふふ、と笑い合って、頷く。
「そういや優月」
「ん?」
「優月に彼氏ができました、てやつ」
「うんうん?」
「もうかなり広まってたよ」
「そうなの?」
「昨日の帰りその話になったらさ、クラス違う奴も、結構知ってたよ」
おぉ。そうなんだ。
そっかぁ、と頷くと、くす、と笑われる。
ん? と問いかけると。「なんか不思議」とまた笑われた。
「優月に彼氏ーとかさ。もっと皆驚きそうのにな?」
「皆、どんな感じ?」
「うーん……なんかすんなり受け止めてる気がする」
「ありがたいけど。確かに不思議ー」
笑った瞬間、スマホが震えた。玲央からのメッセージ。
「――――……」
まだオムライスは出来てこなそうなので、メッセージを開くと。
麻婆豆腐の写真が届いて、「これで良い?」という言葉と、笑った絵文字。
ふ、と暖かい気持ちになって、顔が綻んだ。
「優月嬉しそ」
「え? ……あ。うん」
ふふ、と笑って頷くと。
「最近さー、優月のそういう顔、よく見てたからかもな」
「ん??」
「それが、付き合ってる奴が居るからなら、いいんだろうなあって皆も思うのかもな」
……なんか。
…………それは、嬉しいかも。
言われた言葉を噛みしめていると、「オムライスおまちどうさま~」と呼ばれた。
玲央が居ると、オレが嬉しくて。
……オレが居ると、玲央も、嬉しくて。
そんな風に居れたら。
どんなに変わる時期だとしても……オレ達、ずっと、一緒に居れるかな。
居れたらいいなあ。
そんなことを思いながら。
オレは、「ばっちり」という言葉と、グーサインをしてるハムスターを玲央に送った。
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