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第676話◇

◇ ◇ ◇ ◇  午後まで授業が終わって、待ち合わせていた智也と美咲と一緒に、駅前のしゃぶしゃぶのお店に入った。畳の席、お肉とか野菜食べ放題のコース、二時間制。 「ありがと、美咲、予約してくれて。個室あるんだねーここ」  そう言いながら、掘りごたつみたいになってる椅子に足を入れて座る。 「オレも初めて知った、個室あるの」  智也も言いながらオレの隣に座った。店員さんが注文はタッチパネルでどうぞ、と言って出て行った。 「一応予約したら、個室も空いてますよって。運良かったね」  言いながら美咲はタッチパネルを手に取った。メニューをオレ達に渡しながら、「食べたいもの言って」と言う。  適当に選んで、美咲が注文を終えた。 「メニュー見てたら、お腹すいてきちゃった」  言うと、二人がクスクス笑う。 「昼は何食べたの?」 「オムライス。友達がさ……あ、慎なんだけど。覚えてる?」 「あれだろ、バーベキュー一緒にやった」 「そうそう」  智也の言葉にうなずくと、美咲も、ああ、と笑った。 「それぞれの友達皆で遊ぼうとか言って、皆で河原で集まったね」 「そう。ボーリング大会とかもしたよね。オレが一番仲良かった友達」 「覚えてるよ」  クスクス笑ってる二人に、「なんかオレの星座占い見てくれて、オムライスがラッキーアイテムだよって連絡くれたから」というと、ますます笑われる。 「わざわざくれるの、そんな連絡」 「一位だったんだって。で、オムライス好きなのも知ってるから連絡くれたみたい。でも、連絡は久しぶりだったよ。春休み以来かなー」 「それでほんとにオムライス、食べたんだ」  美咲が可笑しそうに笑う。 「うん。おいしかったんだけど。今日午後体育あったし。お腹すいちゃった」 「体育、今週何やった?」 「テニスだったよ。素振りとかサーブの練習ばっかりで、皆が試合したいとか言ったら先生がまだ早いって」 「しばらくテニスなのかね」 「そうみたいだよー」  そんな、何気ない話をしてると、店員さんがやってきて、頼んだ食材や飲み物を置いて行った。 「私やってくね」  言いながら美咲が、野菜や肉を、お湯に入れていく。 「ねえ、優月って、今どこに居るの?」 「んと……玲央のとこに居る」 「自分のマンション、帰ってないの?」 「うん。たまに荷物取りに行くけど……一緒に暮らしてみようって、言ってる」  そう言うと、二人は、そうなんだ、とちょっと驚いてる。少し黙ったまま、美咲が出来上がった食べ物を分けてくれる。智也がオレに視線を向けるので、ふと見つめ返すと。 「なんか……意外だよな」 「ん?」 「玲央。あんな感じなのに、一緒に暮らすとか、即決するんだな」 「……そだね。言われた時は、やっぱり、びっくり、したかなぁ……」 「急に言われたの?」 「……急に……うん、最初はそうだったかな……。何かその後も、やっぱりそれぞれ色々忙しいし、他の人とも約束したり用事あったりするし……そういう時でも、一緒に住めば、朝と夜は居られるからって言ってくれて」 「あいつが、言ったの? そんなこと」  美咲がもともとおっきい瞳を、ぱちくりしながらオレを見る。 「うん。言ってた……と思う」  いや、言ってたんだけど、あまりにクリクリおっきい瞳で見られて、思い切り頷くのを躊躇って、ちょっと終わりぼそぼそ言ってしまった。 「いや、あの。うん。言ってくれた、よ」  そう言うと、横で智也がクスクス笑う。 「優月のマンションはどうすんだ?」 「んと……オレの借りてるマンション、解約してもらうことになると思う」  智也に答えると、美咲が「おばさんたちには言ったの?」と聞いてくる。 「うん。言ったよ」 「え、もう言ったの?」  美咲が驚いたみたいにオレを見る。  「へー。着々と動いてるんだな」  と、智也もなんだか感心したように呟いてる。 「実はね、玲央と行ったんだよ、実家……」  そう言うと、美咲、もっとびっくりしたみたいに、えっ?と言ったまま、固まってしまった。  そうだよね、びっくりするよね、と笑ってしまうと、横で智也も笑い出す。 「実家に挨拶済み?」 「えっと……あのね、樹里と一樹が喧嘩しててさ。ちょっと珍しく長くてね」 「うんうん」 「その時、玲央、曲作ってたし、オレだけでちょっと実家に行ってくるって言ったら、玲央も、曲作りに詰まってたから一緒に行くって……双子に会いたいって言って……」 「へー」  智也は面白そう。美咲は、まだびっくりした顔してたけど。 「なんかさ、私の中の神月と、優月の話す『玲央』が、同じ人の話だと思えないかも」  と言って、なんだか苦笑いを浮かべてる。

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