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第679話◇

「最初はどうなるかと思ったけど……なんかいいよね」  美咲はそう言うと、オレをまっすぐに見つめてくる。 「なんかさ、価値観とか全然違うっぽいのに……そういうの、全然気にしないで、一緒に居たいなーと思える人と恋出来るっていいね」  そう言って、ふふっと微笑む美咲。  価値観、か。  ……改めてそう言われると、オレと玲央の価値観って。……ていうか、価値観どころか、もう全部。  なにもかも、全然違ったのかも。  周りの人たちも、生き方も、考え方も、してることとかも、全部。 「価値観とか……って、会う前は、どんなに違ってもいいと思うんだけど」 「うん」 「……でもなんか今は、すりあわせてる感じがする、かなぁ……?」 「すりあわせてる?」  面白そうな瞳で、オレを見つめる美咲に、んー、としばし考える。 「玲央ね、前は夜遅かったから朝も遅くて、朝ごはんとか食べなかったし、だから一限もとらなかったんだって。オレはさ、夜は割と早く寝てたし、朝抜いたことなんか無いし、一限多いし」 「正反対だな」  隣で智也が、ぷっ、と吹き出す。 「玲央は付き合ってた人、多いけど、オレ、付き合うの初めてだし、そういうこと全部初めてだし」 「そこも両極端よね」  三人で、うん、と苦笑いで顔を見合わせる。 「バンドとか……そこらへんだけでも、住んでる世界とか、周りの人達が、全然違うし」  んー……あと何だろ。 「あ、玲央、なんかすっごく桁違いにお金持ちだと思うし……」  んーあとは……。 「あと、カッコよすぎるというか。派手?というか……どう考えても、釣り合わないなーと思うというか……」  言ってたら、ふと気付くと、智也と美咲が口元押さえてクスクス笑っていた。 「もー優月……」 「優月……」  美咲と智也に同時に名を呼ばれて、ん? と二人を見比べていると。 「どんだけ出てくるのよ?」 「まあ最後のは別にそんなことないだろうけど」 「えーあるよ? 玲央ってすごくキラキラしてるもん……」 「それは優月が思うだけじゃないの?」 「そうだよ。玲央はんなこと言ってないんだろ?」  二人の言葉に、まあ確かに言ってないけど、と、うんうん頷くと。 「確かにじゃないでしょ」  美咲が笑いながら言って、少し考えてから。 「でもなんかそんな風に違うとこが多くても出会って、何でかずっと一緒に居るんでしょ? 不思議だね」  美咲にそう言われて、ん、と頷く。 「そうだね……今オレ、バンドの人達とかとも一緒に過ごしたり、玲央の家に入ったりして……玲央は夜中遊ぶとかなくなって、早起きして朝ごはん毎日一緒に食べてるし。しかも作ってくれちゃうし……なんとなく、合わせながら……一緒に居る感じかなぁ……」 「それって、さ」 「うん?」 「疲れないの? 価値観違う人に無理して合わせてると、疲れちゃうってある気がするんだよね」 「疲れる? ……ううん。疲れてはないかな。楽しい」 「優月はね。優月はなんでも楽しいって思うよね……神月の方は?」 「んー……玲央は、どうだろ。オレ、朝はね、玲央は一限起きる必要はないから、ちょっと申し訳ないなって思うんだけど……」 「けど?」  智也が可笑しそうにオレを見て、先を促す。 「……なんか、オレと居るようになって、健康になってる気がするって。自分が朝、得意なんだなーって、初めて知ったって言ってた」  玲央が言ってた言葉を思い出しながらそう言うと、智也と美咲は、あはは、と笑い出して、それから、なんだかニヤニヤしながらオレを見つめる。 「もーなんか……なんて言うの、こういうの」 「そうだなー……なんだろな」 「……? 何??」 「んー……」 「うーん……」  智也も美咲も、二人して、んー、としばし考えてから。 「あー……もう、運命、なんじゃない?」  美咲が言ったその言葉に、智也が、それでいいかも、と笑った。

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