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第681話◇

 智也は最初から、優月の決めることって言ってくれてて、美咲をなだめてくれていたけど……やっぱり心配させちゃってたんだなあと思いながらも、今、ほっとしたという言葉とともに伝えてくれるのが、なんか智也らしい。 「まあ……玲央が、優月を可愛がってんのは、確かだったから、すごく心配とかじゃなかったんだけど」  智也はクスクス笑いながら、美咲を見る。 「可愛がってんのは、昔のオレ達以上に、かもよ?」 「……そうなの?」  智也を見て、そのままオレに視線を向けて、美咲が聞いてくるのだけれど。 「オレのこと、可愛がってくれてたの? 二人……」  世話はしてくれてたけど。なんだかそっちに引っかかって、笑ってしまうと。  智也と美咲も、あ、と笑い出した。 「まあ、ちっちゃい頃の優月は可愛かったもんな?」 「そうそう。ほんとちっちゃくて。ぽやぽや笑ってて」  そこまで言ってから、美咲は、あーでもそういえば、と少し眉を顰める。 「でも、すぐ泣くから、あたしはちょっとイライラしてたかも。誰かに泣かされてたりすると、そんな子たちに泣かされないで、とか、すごく怒ってた記憶があるなぁ」    美咲のセリフに、智也はクスクス笑い出した。 「美咲は、優月が泣かされるのが許せなかったんだよね? 可愛がってんのに」 「そう、だったのかもしれないけど、でも、あの頃は優月にもイライラしてたかもー」 「そんなことで泣かないのって、いつも言われてたの覚えてる。あ、でも」 「ん?」 「泣いてる間、背中、撫でてくれてたのも覚えてるよ」  今思い出すと、ほんと泣き虫で恥ずかしいけど、と笑うと、智也も、ああ、見たことあるなーそれ、と笑う。 「三人同じクラスに何回もなったよね。先生たちが、オレのお世話役として二人を置いてくれてるのかなって思ったって、母さんが言ってた」 「え、そんなことってあるの?」 「色々そういうのも考えてクラス分けするんだって。世話役の女の子、各クラスに配置、とか。智也と美咲は、絶対世話役だったよね。オレ絶対世話かける方……」  小さい頃のあれこれが、頭に浮かんでくる。 「なんか……ほんと、お世話になりました」  ふふ、と笑いながらそう言うと、二人は、可笑しそうに笑う。 「オレは、優月の世話してんの好きだったけど。……むしろ、なんつーの、なんか、オレの存在意義、みたいな時もあったかも」 「何それ??」 「んー、今思えば、だよ? なんつーかな……。優月が笑うと嬉しかった、ような気が。今日も泣かせないぞ、みたいな」 「あーそれあたしもかも。優月が泣かないで、ぽやぽや笑ってると、あたしもご機嫌だったし」  なんだか黙って聞いていたのだけれど、可笑しくなって笑い出すと、二人も、懐かしいねーと笑う。 「二人が居てくれて、ほんとありがとうって思ってたけど……なんか今、余計思った」  クスクス笑う二人と、顔を見合わせる。  小さい頃の二人を思い出すと、なんか今、この年になってもこうして居られるのが、ほんと嬉しい。 「玲央とのことも……普通に、聞いてくれて、ありがとね」  そう言うと、智也も美咲も、顔を見合わせてから、ん、と頷いた。

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